見出し画像

初期設定の愛 11.最後の文化祭

 中学最後の文化祭、女神は“八面六臂”の活躍だ。
演劇の主役、楽器演奏、とにかく前へ前へ、人前にでてくる。
シャイで照れ屋さんのイメージはもうない。
 
あの頃のことは、もう遥か遠い昔のようだ。
後にも先にも、観劇でこれほど感激したことはない。シャレではない。
ほんとにすごくよかった。心底、感動したのだ。
 
この時、彼女の声を初めて聴いた。
こんな声なんだ。少し低めで、耳に心地よい。
話の筋は良く覚えていない。たぶん古い中国が舞台だ。
 
正直、いいおんなになったな、そんな風にも思って見ていた。
もう中学3年生だもんな。色気も出てきた。
 
  
 ”幸運の女神には前髪しかない。” 
この言葉は、34歳の時、父が私に送った言葉だ。
 
当時すでに、父の経営する会社へ入社して1年半ほどが経過している。
ひら社員で、営業担当をしていたが、正式な後継指名を受けた。
 
ちょっと早すぎやしないか。
 
父はこの会社の経営権が “女神の前髪” に見えているのか。
これを、”掴み取れ” と言っている。
  
この “女神の前髪” というフレーズ、これを聞いたとき。(注)
日常に追われ、しばらく思い出すこともなかった “我が女神” 佐伯さんだ。
彼女が急に壺から飛び出した。
愛くるしい笑顔が目の前に浮かぶ。
 
“フーッと” 目をつぶり、一度深呼吸をした。
こみ上げる何か熱いものを、ゆっくりと下へ戻した。
 
28歳くらいの頃、訳があり、心の中に専用の壺をつくったのだ。
女神の壺だ。陶器の立派な壺だ、その中に全部つめこんだ。
その上に木の蓋を軽く載せている。
 
ときどき、蓋がはずれて、慌てて蓋を乗せなおす。これがルーティーン。
ちなみに、鉄の蓋に変える気はない。
軽くて、そこそこ丈夫な木が好きだ、自然志向なのだ。
まあ、この辺の心情は察していただきたい。
 
我が女神が全身を支配する。どうしても抑えきれなかった。
足の指の先から頭のてっぺんの髪の毛一本一本の先まで、全身全霊で彼女を感じる。
まー、たまには、浸りきるのも悪くないか。
先に進むための儀式のようなものだ。
 
いつか会えそうな気もする。
この時34歳。
 
すでに女神を最後に見かけた日から、●●年。
これはネタバレだ。伏字とします。

注: こちらも合わせて御一読ください。
m(_ _)m

12.さ~、どうする。へつづく


いいなと思ったら応援しよう!

KOJI
よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!