見出し画像

初期設定の愛 35.イニシャルSとエゴの抵抗

エゴの抵抗、この後に及んでも、まだまだ強いエゴの抵抗。
エゴと ”魂の約束の強制執行” の一騎打ちだ。
(これは、現時点で当時を振り返っての感想である。当時は、深く考えることができず、フワフワした感覚に包まれながら、かすかに残るエゴを頼りに、なんとか正気を保っているような状態であったと思う。はたから見れば、なんら普通の状態のように見えていたのではないか。)

京都への出張
夜遅くチェックインした。
朝方、寝返りをして右手を強く壁に殴打した。
その衝撃、痛みで目を覚ます。こんなことは人生で初経験だ。寝返りで右手を振り回して壁に殴打するなど、これまでは経験がない。
右手をぶつけた壁を見ると、大きな絵画が壁にかかっている。この絵画に右手をぶつけたようだ。
ホテルの壁絵にしては大きいサイズだ、
イニシャル ”S” をモチーフにした絵だろうか。あるいは筆者にだけSに見えるのか。就寝前は気にしてなかった。
佐伯さんの ”S” だ。そう直観した。

壁の絵のイメージ

この日の午前中、コンサルタントと待ち合わせ、商談先へ行く予定だ。
待ち合わせの現場に約束した相手以外にもう一人いる。
あー、どこかで会ったことありそうだが、名前を思い出せない。
まあ、良い。
「すいません。一度お会いしてますね。お名前なんでしたっけ?」

「佐伯です。」 怪訝そうな顔をされた。ほんのひと月ばかり前にあったばかりの人だった。
「佐伯さんをお忘れですか?」待ち合わせ相手が微笑む。

(そうきたか。)

その後、東京へ移動した。
別のビジネスパートナー、最近知り合った人だ。
ターゲットの商談相手との打ち合わせを終え、駅ビルの飲食店で軽く一杯やることになった。

「株式会社佐伯」ってご存じですか?
いきなりだ。   次のターゲットの話題だろう。

「いえ、知りません。」

帰りの新幹線、暇つぶしにYOUTUBE鑑賞。
なにげなく開いたおすすめ動画に佐伯さん(知らない人)が登場している。

駅からはマイカーで帰る。
車の運転中、なにげなく視線を左上に移す。
「リカーショップ SAEKI」こんな店あったかな?
「スナック 〇〇〇」いきなり目に飛び込む。
ひらがな表記の佐伯さんの下の名前だ。

もうすべては覚えていないが、このころ他にもいろいろあった。
しばらくはずっとこんな調子だった。

佐伯さん登場のたび、エゴの抵抗が徐々にその力を弱めている。

エゴの抵抗はひと月持たなかった。流れに身を任す。そんな心境だろう。我がエゴの降参だ。全面降伏。

佐伯さんのSMSへダイレクトメッセージを送ることにした。
ちなみにSNSのDMを送る方法を知らない。
高校生の娘にさりげなく教えてもらった。

2度3度、ためらう。 
やはり怖い。心、いや魂が震えている。
エゴも最後の抵抗だろうか。まだ健在だ。

決心から3日ほど経過、普段あまり飲まない缶チューハイをちびちび飲みながら、集中力を高める。以前スーパーで買っておいたものだ。
文字を入力した。
”中学の同級生の〇〇〇〇です(しっかりフルネーム)。ちょっと連絡とりたいんですが、よろしくお願いいたします。”
そんな感じだったと思う。
残りのチューハイを飲み干して、ボタンを押した。

10分経過・・・・
娘に、相手が読んだかどうかはどうすればわかる?と尋ねた。
「ん~、どうだったなか~?」あまり興味がなさそうだ。

1時間経過・・・
3日経過・・・・
1週間経過・・・・
2週間経過・・・・
それでも返事はない。

ほっとしたが60%くらい。これはエゴ君の勝利だろうか。 

しばらくして、両親に食事に誘われた。
筆者の誕生日を祝うという。確かにそろそろだ。
そういう年齢(とし)ではないと一度、丁重に断った。
今更、両親に誕生日祝いされるなど、こっぱずかしい。
何十年ぶりのことか、両親も寂しいのだろう。
まあ、たまには付き合うかと思いなおし、結局は快諾した。
「俺はもう物欲ないからプレゼンとかは無しにしてくれ。」
それだけ言って電話を切った。

父に渡されたのは、木製の枠入りの写真だ。
単独で、正面を向いている。肩から顔の部分だけが映っている。
12歳のころの筆者。証明写真のようだ。
なんとなく撮影したときのことを覚えている。
丸坊主で、はにかんだ笑顔、幼顔だが凛々しい。
けがれてない。ギリギリ純真無垢のころだ。

そのころの出来事、思い、感覚がよみがえる。一瞬のことだ。
継続中の耳なりがまたしても全身に広がる。身体は相変わらず、フワフワとして、変性意識状態だ。

このころから、何も変わらない。何も変わってない。まったく同じだ。

その後の会話はあまり記憶にない。ただ、あの日、12歳のあの日の佐伯さんが、頭の中でグルグル回る。
頭の中にビタっと張り付いてとれなくなっている。

誕生日会では、この写真の話題にはならなかったようだ。
写真をただ渡されただけだ。
押し入れの整理でもしたのだろう。

36,隠密と茶屋娘  へつづく


いいなと思ったら応援しよう!

KOJI
よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!