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初期設定の愛 48.Money Money

妻との会話は普段少ない。業務連絡のみだ。
いつからか、二人で過ごす時間はほぼなくなった。
寝室も別だ。1週間ほどまるまる会話がないときもざらだ。

朝の挨拶はない。旦那は生きていればそれでいいようだ。
そう感じていた。正直な感想だ。

“ただいま”  “おかえり” “ お風呂はいって。” “ごはん、はやく食べちゃって。” どこかそっぽを向きながら、そう言う。
妻の口から聞くのは、これくらいだろうか。

あっ、これは不平不満ではない。
事実ベースの客観的な描写であり、感情論ではない。

いいこともある。
家で一人の時間がたっぷりあり、深めの思索にふけることができる。
哲学する時間がある。
お陰様で、今や立派なアマチュア哲学者だ。

仕事のことを聞かれたことは一度もない。
興味がないのだろう、まあこれは好都合だ。

生活費を毎月滞りなく渡す。これだけこなせば文句はあるまい。
そう考えて、家業の会社が倒産したことは言わなかった。
家では、そのことを考えたくなかったのかもしれない。

倒産のことは、ママ友から聞いて知ったらしい。地元の取引先は多い。
それでも、そのことは家で話題にならなかった。
ほんとうに興味がないのか、妻のやさしさだったのか?
このことは少々不思議に感じた。

「今月から給与は現金支給になったから。」
そう言ってキャッシュ入りの銀行名入の封筒を渡した。
そう宣言して以降、毎月25日に現金を渡す方法となった。

それまでは、経理担当が振り込んだあと、私が現金を引き出して、経理担当へ現金を渡し、会社の資金繰りに充ててきた。

どうぜ足りないのだ。

社会保険料の節約のためにも、月給を10万円とした。
手取りは8万円弱くらいだろうか。
この金額が通帳に記帳されては困る。 説明が面倒なのだ。

父への支給はなし(ちなみに年金はある。) 
他の従業員には今までどおり、銀行振り込みだ。

以前にやっていた株投資用の証券口座に、株の売却金がいくらかあった。
ほかには自分で管理する口座に出張日当なんかをプールしていた。
現金はその ”へそくり” から工面したり、会社で多少余裕の出たときに、役員貸付の返済という形で現金を得ていた。

父と海岸近くの松林で ”枝ぶりの良い松” を探していたころだったろうか。
「これ使いなさい」と養老保険の通帳と印鑑を渡してくれた。母だ。
筆者名義で毎月5千円か1万円くらいだろうか、10数年だろうか、きっちり毎月積み立ててくれていたようだ。
ちょうど満期だという。

136万円ほどだった。これは助かった。
その資金を増やそうと、この資金のうち80万円の元金でFX(注1)にチャレンジした。

結果としては、1か月でほぼすべて溶かしてしまった。
強制ロスカット(注2)だ。3万円くらいは残ったろうか。
トータルの借金の額を考えれば、かすり傷くらいだ。
当時はそう思うようにして切り替えた。
でも、まあショックだった。正直、血の気がひいた。しばらく 無 になった。(笑)ただ、のんびり反省もしてられない状況なのだ。

どこか自分の知らない世界へ、どんどんどんどん迷い込んでいる。
怖い。とても怖い・・・・。だが、興味もある。
この先、自分はどうなっていくのか?
別の自分になれるのか。
この先に何か違う景色があるのだろうか。
あるなら、ぜひとも見てみたい。

かなり金銭感覚が、麻痺してる。
そうだ、麻痺といえば、左頬のピクピクする麻痺が気になっていた。
片側顔面痙攣というらしい。
左頬がピクピクするたびに左手で頬をパタパタたたいていたら、病院にはいってないが、3年くらいで自然に治った。筆者のヒーリング能力だろうかww。これぞハンドパワーだろうか。
 
ちなみにFXだが、しばらくしてから、養老保険の残金と自身のへそくりを合わせて70万円で再チャレンジした。
今回は、書籍やWEB情報を集めて、それなりに勉強して臨んだ。

作戦は、ショート禁止でロングのみ積み上げていく。(注3)
チャートは基本的にはあまり見ないことにした。たまにちらっと覗き、ここぞというタイミングで、ロングの買い増しを繰り返した。全額捨てたつもりでの勝負として、損失は気にしない。ロスカット上等作戦だ。
どうせ死んだような状態だ。1度死ぬも、2度死ぬも同じだ。
そんなつもりでの勝負だ。
 
結果としては、半年で600万円ほど勝てた。70万円が700万円ほどになったわけだ。1回目の損失を相殺しても余裕の勝ちだ。しばらくは、これで資金繰りで一息つけた。
売り時だが、夜中に突然目覚めた。
「すぐ売れ」そのインスピレーションにしたがい、慌ててノートPCを立ち上げ、全決済ボタンを押した。
朝方にはいっきに円高基調に急変していた。
何かマクロ的な経済要因があったのだろう。よくわからんが。

ゴルフを始めた頃、池やバンカーを意識すると、ほぼほぼそこへ吸い込まれるという現象があった。池が無いものとして、まっすぐ正面だけ見据えて打てば、必ずまっすぐ飛ぶのだ。

FXも損失を恐れて、慌てて損切りすると損失額がドンドン増えて、底なし沼へどんどん吸い込まれる。これは失敗から学んだ。
どうでもいい、捨てたと思って、ほっとけばいいようだ。
そして最後は直観にしたがう。

なんだ、人生と同じだ。
 
 
 毎月25日の現金給料日、一度だけ遅れたことがある。
25日が金曜日、どうしても現金が不足していたのだ。この時は、しっかりきつめに催促された。
”針のむしろ” ”生き地獄” とはこのことだ。
奇跡的に週明けに入金があり助かった。
ちょうど、土日を挟んだこともあり、なんやかんやで、ごまかせた。

現金さえ25日にきっちり渡せれば、
こちらの精神状態がどうであれ、天地がひっくりかえろうが、地震がおころうが、「ありがとう。」必ずそう言ってくれる。そういうことのようだ。

これは心の支えだった。なんとか毎月つなげてきた。
これだけは自分に課してきた。家族には、迷惑をかけない。
これはしっかりやれたと思う。これは自分を誇れる。

妻よ、「ありがとう」と毎月言ってくれて、ありがとう。  (´;ω;`)ウッ…

注1:外国為替証拠金取引のこと。異なる通貨を交換することにより、為替レートの変動により差額が得られたり、損失をこうむることがある金融取引のこと。
注2:一定の損失が発生するとFX会社によって強制決済が行われる仕組みです。
注3:ロングは外貨の買い、ショートは売りのこと。

49.言葉 きずな へつづく


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