初期設定の愛 24.織姫と彦星
キョトンとする女神と神経質そうなバーテンダーの顔をみて、自分の勘違いに気づく。
女神の前だ、もう後にはひけない、恥をかきたくないのだ。
「あーカルピスを日本酒で割るのよ。」思わずついた嘘、知ってる飲める液体の種類を2つ並べただけ。
カルピスはいつも家で飲んでるし、日本酒はバイト先でよく味見していたので、知ってる。
高校進学後、自転車で失踪する彼女を何度かみかけたことがある。すでに、どこかで書いたが。自転車で逆方向を疾走しる女神発見のたび、スピードを緩め、声かけられる空想をしていた。実際、何度か女神も私に気がつき、スピードを緩めたことがある。それだけでうれしかった。3日ほどはテンションあがりっぱなしだ。
今、その女神が目の前にいる。彼女の声を聞いた。一緒にO君をなぐさめようと誘ってくれた。天にも昇るとはこのことか。ある意味、初めての共同作業だ。
Y子さんのことは確かに好きだったはずだ。でも、告白はしないことにした。
翌日電話して謝罪した。
Y子はすごく怒ってた。何かあったんじゃないかと、電話の前で夜遅くまで待っててくれてたようだ。
Y子さん、(m´・ω・`)m ゴメン…。
客の少ない時間、時々、「中は入れ」といわれていたことは前述のとおりだ。にぎりの練習のためだ。
Y子さんは、「コージ君、はい、”さび”。」
いつでも笑顔でボールいっぱいのワサビを渡してくれた。
やや腰をかがめ、上目づかいでボールをわたしてくれるY子さんが、とてもかわいかったのだ。
自分のためにわさびをねってくれたのか。
たまたま、ワサビ補充のタイミングであったかはわからない。
粉わさびに水をまぜてワサビをつくる、そして、それを補充するのが、Y子さんの仕事だ。
その「刀」を飲みながら、あいかわらずO君の話には興味がない、すまんO君よ。
「少し水で割るってもらう?」彼女はすごくやさしい、とてもやさしい子だ。
水で割ってもらうと、「刀」は結構のめた。
「去る者は追わず」彼女が耳元でささやく、少し酔っているようだ。
自分も刀ですこし酔ってる。
彼女が頭を不自然なほど、折り曲げて、ちょこんと私の右肩へ乗せる、3秒きっかり、カウントしてた。
この時間永遠に続いてほしかった。
今でもその感触は覚えている。その直後の彼女の言葉、「懐かしー」。中学時代の記憶が一瞬戻ったのかな。
彼女にとってはもう過去なのか、この言葉で現実に引き戻された。
「そりゃそうだよね、もう遅いよね。」
僕は彼女に恋をしている。
もう否定する元気もない。もうそれでいい、そうだ恋だ、もう遅い、もう認めてやる。どうぜもう遅い。大好きだ、いとおしい、もういい、もう消えてしまいたい。すべてなかったことにならないか・・・。
「送ってってよ」、少し酔っているようだ。彼女の屈託ない声。自転車の荷台に彼女を載せて、彼女の自宅へ送る。
うれしい。幸せだった時間、案外と近いと感じた。
彼女が「ここでいい」国道の手前でおり、左右確認して、国道を慎重に横切る。
道の向こう側の彼女、「織姫と彦星」こんな感じかな。
「もう行って!」なかなか動かない自分に彼女の言葉、彼女が自宅まで入るのを見届けるつもりでいた。
彼女の指示には逆らえない。後ろを振り返らず、べダルを踏む。緩い坂、自然に下り始めた。
彼女はまだ自分を見送っているのだろうか。そんなことが頭をよぎるが、
振り返る勇気はなかった。
「後ろ髪惹かれる」とはこの時の心情のことだろうか。
25.交差点 へつづく