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初期設定の愛 12.さ~、どうする。

会社経営にタッチしてない妹夫婦も合わせ、家族会議があった。もちろん父の主催である。

 「会社の経営はコージに譲る。俺はこの機に引退する。」
声たからかに宣言した父。
 外見上は、前途ある後進に道を譲る潔い政権移譲、英断、花道を飾る。
そんな感じだろう。
 妹の旦那のI君が、「コージさん、おめでとうございます。」 
かなり気を使わしている。
田舎の零細メーカーだ。「そんなに、おめでたくもない。」
確か、どこかの飲食店のお座敷だった。
 
うれしさ半分、こそばゆい感じ半分だ。
 
「この話、受ける前に財務諸表見せてくれ。」
宴もたけなわの解散間際、父に伝えた。

父は少し困った顔をした。 

私はこのころ、既に “霊感、山勘、第六感” が他人より発達していた。
裏の意図が透けて見えるのだ。何か感じていたのだ。
前職のサラリーマン時代、経理も経験した。
数字は強いほうだ、財務諸表も読める。
 
めぼしい資産は不動産だ。自社工場の土地建物・関係会社の土地建物、特許の価値は0円で計算した。
借入残はおよそ3億円。
 土地は簿価の6ー7掛けがその時点の相場だろう。建物は古すぎて価値はあまりない。仮にそれで計算すると、ざっと 2.2億円の債務超過だ。
これは、もちろん関係会社の資産状況等をもすべて含めての計算だ。
あくまで、仮計算だが。
ざっと、直近3年の平均年商の5-6倍だ。
過去3年間のうち、1期が黒字、2期は赤字だ。
ここ5-6年売り上げはコンスタントに落ち続けている。
 ピーク時からはおよそ六分の一まで、売り上げが落ちている。
従業員規模は四分の一までは減らせている。

15年前のM&A, これがすべての発端だ。自社の3倍の売り上げ規模の会社を全額借入で買収したのだ。
これさえなければ、こんなことにはなってない。

当時、大学生だった私も、インターチェンジ傍の新工場の見学へいったことがある。
それまでの、住宅街にあった極せま工場とは雲泥の差だ。
一気に30倍くらいの広さだ、天井も高い。
従業員数も2倍以上に増えた。当時の父は自信に満ち溢れていた。
其のころの私は、漠然とした閉塞感の真っただ中にいた。
なんとなく気が詰まる、そんな毎日だ。
従業員一人一人の自己紹介を、つまらなそうに聞いていた。
あまり興味がなかったのだ。
 
この年の10月から一気に、有利子負債の返済額が現行の3-4倍になる予定であることも判明した。 このことは、経理のNさんが、すまなそうに、教えてくれた。
この時点が4月だ、「あー、それか~」。点と点が線でつながった。
 
現預金額と売り上げ予測、これを加味して計算すると、来年の2月がXデーか。まー良くて3月か4月までだ。
営業担当は私なので、私次第でもあるが・・・。
ん~。これはもう絶望しかない。いさぎよく、腹を切らせるか。
 
「コージさん、社長の生命保険は3年前に解約済です。」
Nさんの追加情報だ。
私の心の声が漏れていたようだ。
 
もはや、父の命にも価値がつかない状況なのだ。
どのようにシミュレーションしても、輝く未来が見えない。

のんびり屋でおひとよし、正義感の強い次男坊、温室育ちのボンボンコージ、そんな印象のままなのだろうか。ま~、確かにその通りだが。
 
それともコージなら、なんとかするだろう。そんな感じなのか。
父の真意が測りかねる。

まー、深い考えはないと見た。
 

13.兄 へつづく


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