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貧困ビジネス?と長野市事業の関係

【概容】

生活困窮者の相談窓口「まいさぽ長野市」。市が社会福祉協議会に委託して実施しています。ある市民から、「まいさぽに相談した結果、かえって不利益を被った」との詳細な情報を提供いただいたので、シェアします。

貧困ビジネス?

Aさんの言葉を聴き終えた筆者・小泉一真は、驚きに絶句し、唸った。そんなことが、本当に、あるのか? 今年4月のことだ。
「貧困ビジネス」という嫌な言葉があり、Wikipediaでは「貧困層をターゲットにしていて、かつ貧困からの脱却に資することなく、貧困を固定化するビジネス」との定義が与えられている。つまり、経済的弱者の足元を見て、そこに付け入るビジネスだ。初めて聞いたときには、そのような商行為に呼び名が要るほど一般化していることに、また便宜とはいえ、反社会的な行為を「ビジネス」の名で呼ばねばならないことに、おぞましさを感じたものだ。小泉には、県庁職員時代に、生活保護の地区担当員として、生活保護受給世帯と向き合ってきた経験があり、当時は彼らを食い物にする輩への嫌悪と、その妙な現実感に、自分の胸がざわざわと鳴るのを聴く思いだった。長野県にも、存在するのだろうか。貧困ビジネスが問題にされるようになってから、しばらくの間は報道等の情報を注視していたが、都市部の報道が多く、長野県内の情報は見当たらない。無料低額宿泊所に代表される貧困ビジネスは、恐らくは路上生活者等を容易にキャッチできる地域でこそ成立するもので、しばらくは長野県内には進出してこないのではないか。根拠に乏しいが、そう思うことで当時は安心していた。
※執筆時点で、長野県・長野市は無料低額宿泊所の存在を確認していないとのこと

しかし、Aさんが巻き込まれた出来事は、長野にはないと思ってきた、貧困ビジネスの一種ではないのか? しかも、巻き込んだのは長野市保健福祉部が発注し、市社会福祉協議会が受託して運営する、「まいさぽ長野市」-生活困窮者自立支援事業-なのだ。

社協note

問題の舞台となった長野市社会福祉協議会が入るビル

初めの手がかり

Aさんは、市内に住む60代の男性だ。「まいさぽ長野市」に初めて接触したのは、昨年の暮れ。経済的に困窮し、ある公的機関から相談するように勧められたという。
親が遺し、大切に住んできた不動産を手放すという、家計再建の最後のカードを切る考えを、Aさんは会って直ぐにまいさぽの職員に話した。親切に見え、秘密を守ると誓った職員を、このときはまだ信頼していたからだ。
初めは、司法書士への委任状からだった。A氏の不動産について資産税関係の書類を集める業務を、M司法書士に委任するよう、まいさぽ職員から迫られている。A氏は、特定の司法書士を名指しで使わせようとする態度に、不自然な印象を受けたが、市の事業の上で指定されるのだから問題はない筈と考えなおし、署名した。M司法書士への報酬支払いが必要となることについては、まいさぽ職員から説明がなかったため、まいさぽが生活困窮者に提供する無料の公共サービスと思っていた。A氏は、自分が感じた不自然さを、素直に受け入れるべきだったかもしれない。一週間後、彼は財産管理を始めとした4業務70万円の委任契約書へのサインを、M司法書士から提案されることになる。

「ビジネス」の環

結局、A氏は3業務50万円に値切って、M司法書士と委任契約を結んだ。
A氏にS不動産を紹介したのも、M司法書士だ。M司法書士にあてて最初の書類にサインした3日後に、A氏の前に現れ、1150万円で不動産の購入申込を行い、サインさせている。商談はまいさぽ事務所で、まいさぽ職員が同席した上で行われた事実が、小泉の質問に対する保健福祉部長の答弁で認められた。市の施設を使わせて、特定の業者に商談を許しているという感覚が、小泉には信じられない。市の委託事業であったとしても、受託した社会福祉協議会は、社会福祉法で設置が求められている公共性の高い社会福祉法人なのだ。A氏にすれば、公共の事業のお墨付きがある契約であり、問題などありえないと考えても、誰が責められるだろうか。

S不動産

M司法書士は、S不動産を紹介した

ここでS不動産のとった行動を、読者はもう予測できるのではないか。そのとおり、次のプレイヤーを、A氏に勧めたのだ。購入申込は、建物の撤去が条件となっており、廃棄物処理業者のA社が作った228万円の見積書が、購入申込と同時に示されている。
A氏は後に改めて、S不動産との間で不動産売買の本契約を結んだが、M司法書士に委任状を書いてからわずか1週間でここまできてしまった。住み慣れた土地なのに、という感傷は於くとしても、不動産の売買のペースとしては超特急ではないか。さすがに、まいさぽが紹介したM司法書士だけあって、彼の率いるチームの仕事ぶりは手慣れたプロの手口だ。チームワークの素晴らしさに、小泉は半ば感心するほどなのだ。

名称未設定ファイル (3)

相談しない幸せと、相談する不幸せ

1800万円という新たな購入申込金額に、A氏にとって喜びよりも、「間違いでは」との訝しい思いの方が先だった。
実は、自分の今後の人生を決める取引を、市が絡んでいる業者とはいえ、ただ一者からの購入申込だけで決めてよいのかと、A氏は心配していた。そして複数業者から見積もりを取るという、考えてみれば当然の行動が、確かに彼の人生を変えたのだ。T商事からのオファーは、A氏の手取り額で比べるとS不動産のほぼ2倍になる。彼はS不動産との契約は解除することを即断する。
これでA氏は幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし。と言えないのは、明らかだろう。何しろ、まいさぽに相談せず、最初から一人で行動していれば、契約解除などという面倒な手続きはしなくて済んだのだ。さらにM司法書士や、廃棄物処理業A社とも交渉して、同様に契約解除が必要となる。そのため、A氏は弁護士を選任しなければならなくなったが、これもまいさぽに相談さえしなければ、負担しなくてよかったコストだ。何より、S不動産への違約金300万円を支払わねばならないのが痛い。老後の生活資金として、みすみす失ってよい金額ではない。
A氏は、まいさぽ長野市に相談するよりも、最初からひとりで道を切り拓いた方が幸せだった。抱えることになったトラブルと経済的損失は、全てまいさぽに相談したA氏独りの自己責任として、泣き寝入りしなければならないのだろうか。

まいさぽが果たした役割

A氏は生活困窮者で、不動産を売り払って、生活資金に充てようとしている。生活に困っているなら、急いで売りたいだろう。じっくり構えて高く売る余裕はない。つまり買いたたき、むしり取るチャンスがある。
そういう情報とセットにして、まいさぽはM司法書士にA氏を預けてしまった。仮に、そんな情報はM氏に与えていないとまいさぽが主張するとしても、社協に相談に来たという情報があれば、そのように容易に推察ができてしまう。A氏が貧困ビジネス?に骨までしゃぶられる一歩手前で難を逃れたのは、A氏自身の判断力が正しかったからで、まいさぽが救ってくれたからではない。それどころか、まいさぽは、M司法書士にA氏を引き渡した以外、特段何もしていない。こんな相談事業なら、ない方が生活困窮者の利益に叶うと、市民に批判されても返す言葉がないのではないか。
まいさぽは、違法・不当なことは何もないと言うかも知れない。M司法書士も、S不動産も、A社も、契約自由の資本主義社会で、利潤を極大化する企業原理に従っただけだ。A氏は自由意思で契約し、契約は保護されねばならないから、違約金300万円は妥当な額だ。それらはリクツとしては正しいかもしれないが、スジ論としては全く容れることができない。企業に社会的責任も、倫理も問われなくてよいわけがない。社協という、役所みたいな建物に呼び出されて、職員と業者がひざ詰めで、この金額で購入しますよ、どうしますかと迫る姿は異様だが、世話になっている手前、断りづらい。そこにA氏の完全な自由意思があったと言えるのか。
無料低額宿泊所は、かつては野放しだった。しかし今では、法により、行政に届出義務が課せられている。

市議会で質問

この件についての小泉の質問は、まいさぽ事業と相談者A氏個人の利害について問うものだったが、個人情報に触れることを極力回避しつつ、乏しい質問時間の中で行うという、厳しいものだった。長野市側が調査の意向を示したのは一定程度評価できるが、A氏の被った被害の救済はどうなるのか。今後も注視し、チェックしていきたい。

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6月17日、質問する小泉一真(リンク先は動画)

議会で配布した資料。S社の購入申込書とT商事の契約書

この記事は、長野市議会議員小泉一真のブログ内容を、note向きに一部を編集したものです。
小泉一真ブログ「『全部言います!』小泉一真の市議会トーク」該当ページ:
https://www.koizumikazuma.jp/2021/06/blog-post_29.html



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