ツノがある東館×一行目で惹きつける【毎週ショートショートnote】
その電波塔は東の京から嫁いできたと聞いた。
「東京タワーと申します」
すらりとした長身を屈め、四つ脚をついた電波塔は、婚礼色の紅白に彩られたトラスも洗練されて美しかった。昭和から平成期に日本一の高さと知名度を誇ったが、このほど後進のスカイツリーに道を譲り、家庭に入る決心をしたのだという。
身の丈に合う場所で暮らしたいと、はるばる海を渡り、北の大地へ鉄骨を埋めるに至るには、迷いも葛藤も様々あっただろう。春まだ遠き如月の、花びらのごとく降りしきる雪をまとい、桜色にお色直しを済ませた東京タワーが、嫁ぎ先の函館山を目指して行く。
「幾久しくお願いいたします」
標高334メートル。ほんの1メートルばかり高い御殿山頂の展望台に寄り添い、東館タワーと名を変えた電波塔が微笑む。
こんもり積もる雪で白無垢に着替えたタワーの、ツノ隠しに当たるトップデッキでは、厳かな『高砂』の謡に乗って、三々九度のドリンクサービスが始まっていた。
副題:御殿に高砂