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会員制の粉雪【毎週ショートショートnote】

無いものねだりというやつかも知れない。
北陸人は概して粉雪に憧れを抱く。湿潤な日本海と北アルプスがもたらす大量のぼた雪は、水気を含んでべっとり重く、樹木も家屋も人の気持ちも圧し潰す。

極寒の最中に屋根へ登って数百キロになる圧雪を降ろし、道を埋める雪をスコップや機械で砕き、凶器に近い凍結落雪や事故・立ち往生多発の悪路に怯える。近年の記録的暖冬や予算の増額で市民の負担は軽減されても、長年の艱難辛苦が春の根雪のごとく心中にわだかまっている。
嗚呼これが、さらさら乾いた、軽く細かい粉雪だったなら――。

というたっての悲願を受け、このほど北陸/東北(環日本海)限定、会員制の粉雪優待サービスが誕生した。気候制御AIを駆使し、会員の居住地周辺および指定区域の降雪を粉雪に変換するのだ。
ただし代償として、冬季平均気温-10℃、相対湿度15~20%減、AI運用と雪質の違いによる除雪設備の刷新に伴う、住民税の年額50%増が入会条件である。

副題:県民の雪望