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会員制の粉雪【毎週ショートショートnote】
汐ヶ峰は雪塩の降る町だ。
冬の海颪が暮れ方の山にぶつかると、町に凍った粉塩が降り注ぐ。粒の細かい塩化ナトリウムの結晶がきらきら光りながら、建物も道も透き通った茜色に染めていく光景は美しかった。
錆びた鉄筋。腐食したコンクリート。枯れた街路樹や田畑。放棄された無人の町は原寸大の石庭の様だ。上空から見下ろす会員制の遊覧フライトは春まで予約で埋まっている。
ホワイトカルテルの台頭で会員以外の資源利用が制限され、汐ヶ峰は上級世界の塩田として、会員の腹と優越感を満たし続けている。
氷砂糖の降る町。小麦粉や米粉の降る町。粉石鹸の降る町。白砂の降る町。薬物や死の灰が降る町もある。地球の水資源が9割枯渇し、本物の雪はVRか記録映像でしかお目にかかれない。海王星まで船を飛ばせば、メタンハイドレートを削った会員制の粉雪が見られるそうだ。
相対湿度0.001%
今日も水のない海を風が渡り、乾いた塩と魚の塵骨を巻き上げていく。
副題:粉の降る町