罠の中の地味に怒る【毎週ショートショートnote】
どうせ自分の差し金だと、私が気付かぬと思っている。
表で笑い騒ぐ声に耳をふさぐ。ひねくれた性分は昔からだが、澄ました顔で他人を巻き込み罠を張らせる辺り、まったくお前は可愛げがない。
そう易々と出てやるものか。ふんと鼻を鳴らした拍子、岩戸の内で稲光が巻いた。
私には弟が二人ある。双方とも曲者だが、ことに離れて暮らす上の弟は面倒くさい男だ。
何を投げても『姉上の良い様に』と従順に返す、穏やかな微笑の裏で何を考えているのか。乱暴で甘ったれな末弟の方がよほど単純で転がしやすい。
分かりやすい末弟の、度の過ぎた甘えに愛想を尽かし、大げんかの末に岩戸を閉じた私を、上の弟が企てにかけて引っ張り出そうとした。
やむなく岩戸を出た後、頭にきて怒鳴り込みに行った夜の宮で、奴は腰を抜かさんばかりに驚いていた。
「天照……!?」
――ふん、お前にも案外と可愛げがあるじゃないか。
夜目にも真っ赤に染まった月面に、不覚にも笑ってしまった。
副題:会稀月色