忍者ラブレター【毎週ショートショートnote】
天高く虫増ゆる秋――
「臭者じゃ、出会え出会え！」
隣室の夫のラブコールに、私はリアルに重い腰を上げた。
えゝ軟弱者め、これで何度目か。ドスドス廊下を踏み鳴らしてドアを開ければ、案の定ソファに縮こまる夫が、潤んだ子犬の目でハガキを差し出してきた。
果敢に排除を試みたらしいが逆効果だ。きな臭い痕跡に鼻をひくつかせつつ『忍者』の潜伏場所を探す。
対虫戦闘力は子犬以下の夫が『忍者ラブレター』と称す、業者のダイレクトメールである。対象により渡されるブツはスリッパ・ハエ叩き・単刀直入に殺虫剤と各種あるが、奴に関しては下手な接触は禁物なのだ。
秋口から春先にかけて室内に侵入、どこからともなく涌き出ては臭遁の術を仕掛ける黒い忍者Ｋ。
――む、そこか！
壁に張り付いたＫをラブレターで掬い、窓から外へ。
「はい、これにて一件落着」
「ありがとう♡」
こちとら全く有り難くない出会いだが、忍者ラブレターを介して夫婦の絆はちょっぴり深まる。
副題：亀虫忍臭捕物帖