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告白水平線【毎週ショートショートnote】

水平線は悩んでいた。
千日ばかり前、岬の発射台から宙へ飛び立つ銀の船に、水平線は恋をした。
真白い雲をなびかせ、瞬く間に駆け去った美しい姿を忘れかね、今日戻るか明日帰るかと期待して、水平の円弧も千々に波打つほどだった。

あれは人間の造った船で、星の海の竜宮へ行くのだと、朝の挨拶がてら太陽が教えてくれた。
千の夜が明ける頃には、お使いを終えて戻るでしょうと、月も満ち欠けの合間に、宙を見上げて待ち続ける水平線を慰めてくれた。
次に会えたら、ああ言おうこう告げようと考え考え、千の日と千の夜を越えた頃、待ち焦がれた船影が大気圏に尾を引いた。
――おかえりなさい。
万感込めた声が届いたか、真っ赤に燃える船は水平線の懐へ一直線に飛び込み、抱きしめる様に折り畳まれた円弧の海に、銀の星屑を振りまいたのだった。

後日、人間が海面衝突した惑星探査機の破片を回収したが、心臓部に封入された小惑星リュウグウの試料カプセルだけが見付からなかったと言う。


副題:幻想交響曲第9番『水平世界より』~恋路