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切符切り絵~ねこの日ショートショート

「またたび駅へようこそ!」
歯切れの良い掛け声と、パチンと響く爪の音。渡世線またたび駅には、脚絆に三度笠で切符を切る名物駅長がいる。

駅名で察しがつく通り、よわい三十年、三つ又尻尾の化け猫だが、名物なのは姿形ではない。白手袋ならぬ白靴下の猫肢が、パチンパチンと爪で切り取る切符窓。これが見事な切り絵になっている。

肉球一つの小さな窓に、ある時は満開の桜吹雪、ある時は紅葉の錦織りといった具合に、季節の風物を巧みに切る。客の行き先や旅の思い出をぴんと伸ばしたヒゲ先に感じ取り、即興で旅行絵巻を仕立てたりもする。
改札三歩の三度笠。その早技と美しさに魅了され、ふたたびみたびと駅を訪れる者が後を絶たない。希望すれば切符は持ち帰りも可能で、切り窓を透かし見ながら駅舎を出る客の顔は、まさにまたたびに酔った猫のごとし。

ただし駅の営業は春夏秋の三季まで。冬はこたつで丸くなるのが、切っても切れないお約束だ。