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べこクイーン鉄塔【毎週ショートショートnote】

会津電力赤牛発電所は、東北一円を股にかける鉄塔牧場である。
べこクイーンの愛称で親しまれる深紅の赤べこ基を司令塔に、二本角の乳牛鉄塔群がモーレツに働き、一角の子牛鉄塔を造産するかたわら、送電線を通じて新鮮な電乳を日夜送り出している。

焼けつくほどの酷暑の夏も、鉄さえひしゃげる豪雪の冬も、未曽有の大災害が町を襲った年も、鉄塔達は黙々と電乳を作った。鳴き言もこぼさず頷き続ける赤べこの様に、べこクイーンの赤い鉄骨は変わらぬ静かさで人々の頭上にそびえ立っていた。


建造から六十年。人々の生活を支え続けたべこクイーンは還暦を迎えた。
大勢の観衆と鉄塔仲間の見送る中、送電線から解き放たれたべこクイーンは、夕暮れの空に角を掲げて一声啼いた。
物悲しくも温かみのある錆びた軋みが送電線を伝い、町の隅々まで響き渡る。コンクリートの基盤を振り落とし、鉄のひづめが黄昏を駆け昇った。

架線の間を流れる乳色の星の川に、深紅の電光が一閃して消えた。



副題:星電気せいでんき牛は天の川ミルキーウェイの夢を見るか?
※乳牛鉄塔は造語です。画像の二本角の鉄塔は山岳地用の烏帽子えぼし型鉄塔。よく見かける先の尖った細い鉄塔は、四角鉄塔と呼ばれるものです。