星屑ドライブ【毎週ショートショートnote】
「星の声を聴きに行こう」
ロマンチックな誘い文句に惹かれ、夜の海へドライブに来た。
灰色に濡れた砂へ寄せては返す波の音。おぼろ雲が垂れ込めた空の下、彼の車が海岸線を辿って行く。
「星の砂というのね。綺麗な名前」
ガイドブックで調べてはあった。星型をした有孔虫の殻で、見付けると願いが叶うと言われる幸せのお守りだ。足元に広がる満天の星を想像しながら目をつむる。
「星の骨かも知れないな。億年の命を終えた星が、砕けて星屑になり、やがて宙へ還る」
ウィンドウから吹き込む肌寒い風に混じって、タイヤが砂を噛む音が響く。
潮騒が遠ざかり、車内を満たす星の声。砕け散る悲鳴なのか、始まりの産声なのか、星屑を撒いた道に二人きり、絶え間なく注ぐ声を聴く。
「目を開けて」
ざらついた指がまぶたに触る。
雲の切れ間から射し込む月光が、星の砂浜を銀色にきらめかせていた。
宙へ続く銀河の道を、車がゆっくりと走り出す。
副題:幾星霜