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執念第一【毎週ショートショート】
どうしても履きたかった。
通称カレンシューズ。童話の村娘を踊り狂わせ、両足を切らせた赤い靴だ。知人の靴職人が手に入れたが、凶事を招くとして工房へしまい込み、私に見せてはくれなかった。
きっと禍々しいまでに美しい靴だろう。しなやかに足を包むなめし革。濡れた様な深紅のエナメル。履いて踊ったら天にも昇る心地に違いない。
寝ても覚めても思うは靴の事ばかり。カレンが乗り移ったごとくに恋焦がれ、ついには盗みを企て工房に忍び入った。
薄暗い工房の奥、棚の片隅に眠る天鵞絨の箱。
ついにあの靴が履ける。胸を高鳴らせて蓋を開いた。
「……白い?」
月明かりに浮かび上がる純白のエナメル。箱を間違えたのか、でも。
ためらい半分に爪先を通す。吸い付く様な肌触りと軽やかさに吐息が漏れる。
――くす。低く笑う声に続けて、鋭く風を切る音がした。
ああ、何て美しい赫だろう。
宙に躍る靴と蒼白の両足。
どんな末路であれ、願いは確かに叶ったのだ。
副題:欲望の血靴