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だんだん高くなるドライブ【毎週ショートショートnote】
サザビーズのオークションに年代物のドライブが出品された。
今は走行していない生ドライブで、砂埃香る轍に添えたエンジンキーには、『最もドライブを愛する者へ』と金文字が刻んであった。
いずれ劣らぬ車好き、ロードマニア、プロドライバーが競売に名乗りを上げ、このドライブに渡りを付けようと、入札と共に己の遍歴を並べ立てたが、落札者は一向に決しなかった。
情報化と仮想の波がタイヤと車で楽しむドライブを駆逐し、彼らの『ドライブ』とは検索履歴の単なる羅列、あるいは端末の情報処理を行うデスクドライブに過ぎなくなっていた。
勝敗不明のまま落札価格は吊り上がり、未踏のドライブについた終り値は地球一周分の旅費より高額だった。
結局落札者は確定せずに期限切れを迎え、ドライブは永久保管庫へお蔵入りとなった。
もはや運転免許も、歴史資料以外の車も存在しない世界で、セピアにくすんだキーだけが出発の日を待ち続けている。
副題:エルドラドの轍