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桜回線×魅力的な台詞ではじまるお話【毎週ショートショートnote】

「今週末には、各地に桜の便りが届きそうです」
――と、朝の天気予報で聞いたので、部屋の窓を開けておく事にした。

机に白紙の便箋を広げながら、今年もこの時期が来たなと思う。
季節の便りは日々方々から届くけれど、桜の便りはやはり格別の趣がある。咲きがけと散り際に合わせて交わす桜との往復書簡。手紙好きならずとも楽しみにしている人間は多いだろう。

午後の風が便箋をはためかせ、ふと気付けば匂やかな消息がしたためてあった。
春靄けぶる様な薄墨の散らし書きで一文、

『津々五つ桜開くさ筒井筒』

つづいつつさくらひらくさつついづつ
何処の桜かは知らないが、今年は回文和歌で来たか。
去年はギャル文字の解読に四苦八苦し、一昨年はいろは歌の創作に頭を抱えた。風雅と遊び心を解する麗しきペンフレンド。返事をミスると届かなくなる恐れがあるので、毎回結構必死である。

さて、下の句を何と返そうか。
ためつすがめつ悩んでいる間中、私の脳内回線も桜一色に染まっている。


副題:桜復おうふく書簡