見出し画像

【シナリオ】憧れの人との距離の縮め方。

6月某日。時刻は20時をまわったところ。
都心から少し外れたところにある、『WESTミュージカルスタジオ』という小中高生のためのミュージカルスクールの電気が消えた。
その建物の中から、会話を楽しむ3人の女の子が出てきた。
天然気質のあるスクールの新人、中学3年生の亜冬なずなと、スクールのリーダーでみんなの憧れの的の高校1年生の夕月彩奈、身長145cmの低身長ダンサー、彩奈と幼なじみの高校1年生、一高祭。
ハードな練習を終えたからか、汗で髪が濡れている。

なずな「この前ね、学校の委員会の集まりがあってね、」
祭「ん、にゃずにゃの委員会当てたい。」
なずな「一発勝負で!」
祭「保健!」
なずな「ボランティアでしたー!」
祭「善意!善意の塊!」
なずな「なんで保健だと思ったの?」
祭「にゃずにゃに看病されたい。」
彩奈「下心の塊ね。」
祭「だってだいすきだモーン!」ギューッ
なずな「おー!よしよし〜」
彩奈「それで??何か言いかけだったんじゃない?」
なずな「あー、そうそう!」
祭「善意の塊委員会で?」
なずな「そう、他クラスとか他学年とかごちゃ混ぜにして、四人班作って話し合いをしようってなったの。今後の動きとか、これまでのこととかを振り返ろうって。」
彩奈「うんうん。」
祭「そいでー?」
なずな「うん、それでね、なんかよくわかんないんだけど、変な子?いや、変って言っちゃいけないか。不思議?不思議、うん、不思議な子がいて。」
彩奈「不思議な子。」
祭「にゃずにゃに言われるってことは相当だに。」
彩奈「気になるわね。」
なずな「なんか、(指で数を数えながら)私、仕切ってくれた2年生の男の子、あんまり話し合いに参加したくなさそうな2年生の女の子、と、その不思議な1年生の男の子。この4人!」
祭「ん、なずにゃ何年生だっけ?」
なずな「ん?3年だよ?」
祭「仕切んないんだ。」
なずな「仕切れないよ〜」
彩奈「なずならしいわね。」
祭「で、どんなふうに不思議だったの?」
なずな「なんか、私にしか話しかけてこないの。」
祭「にゃずにゃにしか?」
彩奈「初対面?」
なずな「うん。まぁ正確に言えば1回は委員会で顔を合わせたことはあるけど、班になったのも初めてだし、ちゃんと話すのはその時が初めて。」
祭「どんなふうに話しかけてくるにゃ?」
なずな「なんか、関係ないこと、話し合いに。しかも、面白い話をするって言って、なんかあんまり面白くない話するの。」
祭「なんだそり。」
なずな「しかもなんか勢いもすごくて...ちょっとびっくりしちゃったよ。」
彩奈「どんな話されたのか気になるわね。」
なずな「んー」

なずなは大きく体を使って説明を始める。

なずな「仕切ってくれた子はね、とても明るくてひょうきんな感じで(真似をしながら)『じゃあ、みんな、この2ヶ月活動してみて何か困ったこととか、ありましたか?』」

なずな、目で彩奈に訴えかける。

彩奈「ん?」
なずな「(頷く)」
彩奈「あー、えーっと、(なずなの真似をしながら)『んー、そうだな、割とうちのクラスはみんな積極的?で、協力してくれたからそこまで困ったことは無かったかも。』」
祭「なにしてんの?」
彩奈「委員会の時のなずなの真似。」
祭「見てたの?」
彩奈「想像。」
祭「ウケる。」
なずな「(仕切りの子の真似)『そうですよね、ありがとうございます、亜冬さん。あ、じゃあ、あなたは?』」

なずなは今の位置から少し右に移動し、表情をガラリと変え、やる気のなさそうに髪の毛を指に絡め、クルクルと回している。

祭「あ、人変わった。」
彩奈「あれよ、“あんまり話し合いに参加したくなさそうな2年生の女の子”」
祭「あー。」

なずなは一頻り髪を弄り終えると、また先程の位置に戻り、"仕切り役の男の子"の顔に戻る。

なずな「(真似をして)『あー...あはは。(祭を見て)あ、あなたは?』」

なずなは、そのまま祭りを手のひらで指した。

祭「ウチ!?」
彩奈「(小声で)祭じゃないよ、役、振られてる。」
祭「あー。残るは...あ。えー...。」
なずな「『何かクラスでありましたー?』」
祭「...(咳払いし、不思議な子になりきる)『そんなことよりなずなさん、島崎先生って習ったことあります?』」
彩奈「(なずなを真似て)『え?ああ、まあ。』」
祭「(不思議な子を真似て)『あの先生の面白い話あって、僕今数学担当してもらってるんですけど、あの先生、まあまあイケメンじゃないですか。だから僕のクラスの女の子なんかみんなキャーキャー?もう入ってきただけで、黄色い声援すっごくて。それでその先生、とりあえず号令をするために騒ぎを沈めて号令終わったあとに、すんごいこと言ったんですよ。』」
彩奈「...『な、なんて?』」
祭「『もう、僕に飽きちゃったのって?』」

カラスが鳴く。

祭「帰っていい?」
彩奈「こんな感じ?」
なずな「凄い!!!つまんなさ100点だね祭ちゃん!!!!👏」
祭「え、褒められてんの貶されてんの?」
彩奈「祭よく頑張ったわよあの無茶ぶりに...。」
祭「いやホントだにゃ役者やってなかったら友達やめるとこだったにゃ。」
彩奈「ほんとにあんな感じのつまんなさだったの?」
なずな「ほんとに、、あんな感じのつまんなさだった。甦ってた、今ここに。彼甦ってた。」
祭「蘇らせた。」
なずな「私ももちろんだし、仕切り役の彼も困ってるし、みんな困りすぎて、その後髪の毛くるくるやる気ないガールが発言してくれたもん自分から。」
彩奈「なんであの場であんな発言したのかしらね。」
なずな「うん。どう思う?演じた身として。」
祭「今日無茶振りすごいねなずな。」
なずな「やっぱ、役者としても人生としても先輩だし。」
祭「えー。んー。...その子、中1だよね?」
なずな「うん。」
祭「んー、多分、多分ね、単純に、にゃずにゃと仲良くなりたかったんじゃないかな?」
彩奈「仲良く?」
なずな「私と?」
祭「うん。年上の、美人で、憧れの存在、みたいに見えたんじゃないかな。1回目の委員会で一目惚れして、友達も沢山いて、明るいずっと話してみたかった先輩が隣にいるってなって。今日を逃したらもしかしたらもう話せる機会が無いかもしれない!って思ったらいてもたってもいられなくて、気持ちが空回りして、変なこと話しちゃった...みたいにゃ。」
なずな「すごい祭ちゃん!!経験者!?」
祭「ほっとけ!!!!」
彩奈「でもなんか少し、わかるかも。そういうの、私も一度だけある。」
なずな「彩奈ちゃんが!?」
彩奈「憧れの女優さんに会った時にね。私は緊張しすぎて、逆に何も話せなかった人だけど。」
なずな「みんなの憧れの的の彩奈ちゃんにも、そういう経験があるんだね。」
祭「仲良くなる時の距離の詰め方って、難しいよに。人によってパーソナルスペース?も違うし。踏み込みすぎたら嫌われるかもしれない、けど踏み込まなかったらもう二度と話せないかもしれない。」
彩奈「その男の子、本当になずなと仲良くなりたかったのかもしれないわね。」
なずな「あ...もしかして。」
祭「ん?」
なずな「私が初めて(ミュージカル)スタジオに訪れて、舞台の上で観たことのあった、彩奈ちゃんや祭ちゃんを初めて見た時、」
彩奈・祭「...あー!!」
なずな「あんな感じ!?」
彩奈・祭「あんな感じ!笑」
なずな「あんな感じかー!!笑笑」
「「あはははは」」
なずな「なんか、恥ずかしい」
彩奈「恥ずかしいわよね、振り返ると」
祭「ほんっと、恥ずかしいにゃ」
なずな「そっか、あれか。」
祭「あんときのにゃずにゃは、もう祭たちに興味津々過ぎて質問攻めだったけど、人によって緊張と仲良くなりたいが掛け合わさった時に出る行動って、違うんだと思うにゃ。」
彩奈「私はなんにも喋れなくて、」
祭「祭もその男の子と一緒で、長舌になっちゃうタイプにゃ。」
なずな「へー!」
祭「内緒だからに!!ゆうりとかに言ったら怒るからに!!」
なずな「はぁーい。
あーあ、そっか、そうだったんだ。」
祭「ほんと、人と仲良くなるのは難しいよに。距離を縮めたかったのに、裏目に出ちゃうことの方が多いにゃ。」
彩奈「次の委員会はいつ?」
なずな「学期末。だけど、明日クラス行ってみようかな。」
祭「まじ!?」
なずな「うん、なんか、もしかしたらしょんぼりしてるかもしれないじゃん?」
彩奈「ま、まぁそうだけど...」
祭「ガチ恋製造機だにゃ...」
なずな「それどういう意味ー?」
祭「なんでもないにゃー。」
彩奈「あんまり本気にさせないようにね?」
なずな「本気って?」
祭「彼がにゃずにゃを、好きになっちゃうかもしれないってこと!」
なずな「...??なんで??」

とぼけた表情のなずなに、祭は頭を抱え、彩奈は苦笑いをする。

祭「今度は恋愛を教えなきゃだにゃ...。」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?