幻想の恋の終わりと本当の恋の始まり
どんなに想っても、きっと報われることのない恋なんだ…
片思いしている職場の彼のことを
もうあきらめる
そう決めたとき
心の奥からさめざめとした悲しみが込み上げてきた。
こんなとき、
ついついポジティブな思考で
ネガティブな思いに蓋をしようとしてしまうのがわたしの癖だ。
このときも
込み上げてくる悲しみをスルーしかけた。
もっと素敵な人と幸せな恋をしたほうがいいよ!
だとか
一人でも楽しめるようにならないと、本当の恋はできないよ!
とかなんとか。
けれど、少し前に友人からもらったアドバイスが頭をよぎった。
「悲しいとかさみしいとかの、弱い感情も感じてごらん」
ハッとなって
通り過ぎようとしている悲しみを
ぐっと引き寄せ直した。
悲しみの海の中に沈んでいくように
そこに浸り続けた。
すると、悲しみだけじゃなく
いろんな感情が湧き出してくる。
欲しくて欲しくて狂いそうなものを
諦めなければならないときの
無念。
虚しさ。
そんな感情の海の中に沈んだまま
翌日も職場で彼と仕事をしていた。
昼休み。
わたしの後方の席に座っている彼を
スマホの画面に反射させて見ながら
心の中で
さようなら。
ありがとう。
もう終わりにするね…
そう語りかけようとした。
あぁ、ダメダメ。
これ以上ここで考えたら
涙が出ちゃうから!
続きは家に帰ってからだ。
部屋に帰ってすぐ
バスタブにお湯を張って
お風呂に入った。
お風呂ならどんだけ泣いても鼻水垂らしても
洗い流せるから。
昼休みの続きをやった。
さようなら。
ありがとう。
もうお終いにする。
心の中の彼にそう伝えた。
彼に向かって大きく開いていた心の扉が閉まっていく
そんな心の情景を
まるで映像でも見ているかのように
感じ取ることができた。
黒いドアがこちらに向かって徐々に閉まる。
ドアの隙間から見えていた彼の姿が見えなくなった。
わき上がる思いを感じて感じて感じて感じて
ぐちゃぐちゃに泣いた。
お風呂からあがると
悲しみや虚しさを感じきったせいか
不思議とスッキリしていた。
そうなのか。
感情というものは
ちゃんと感じて味わいきってあげると
消化できてしまうんだな。
そして、大好きだった彼のことが
なんだかちょっと
心の中でよそよそしい存在になっていた。
そんなとき、ふと気がついた。
もしかして、今まで好きだったのは
わたしの理想で作り上げた幻想の彼だったんじゃ…
彼の理想像を勝手に作り上げて、
その通りに振る舞ってくれない
その通りに反応してくれない
そんな彼に絶望していたのでは…。
わたしがあきらめたのは
理想で作り上げた幻想の彼だったのだ。
そもそも、そんな人はこの世にいなかったのだ。
この世にいない人を好きになって
振り向いてよー!
わたしを好きになってよー!
って頑張っていたのだ。
そりゃ無理な話だ。
それに気がついたら、
じぶんでもなんだかおかしくなって
笑いが込み上げてきた。
ということは…
等身大の彼っていったいどんななのだろうか。
わたしは彼のことを何も知らない。
それもそのはず。
これまで、本当の彼のことを何も見ていなかったのだから。
これから、等身大の本当の彼のことを見ていこう。
それでもわたしは彼を好きと思うのかどうなのか。
明日から、会社でまた彼に会うことが
違った意味で楽しみになった。