【サラリーマン生活】落ち着いてからもう一度
わたしはサラリーマンだ。
どちらかといえば昭和のサラリーマンだ。
部内にヒステリーを起こすオッサンがいた。
たぶん50歳前後だ。
ある朝のことだ。
まだ朝なんだ。
そのヒステリーオッサンが、わたしの名を呼び
「○○の件はどうなってるんだー(キーー!)」と叫んだ。
叫んだ、と書いたが大袈裟ではない。
ほんとに叫ぶんだ、このオッサン。
フロアは凍りついた。
わたしは無視した。
ヒステリーオッサンを無視するなんて前代未聞だ。
フロアはさらに凍りついた。
上司ならともかく、そのオッサンはパイセンではあるが、上司ではない。
そして、担当が違うので「○○の件」はオッサンにはまったく関係ないんだ。
さらに遠くから名前を絶叫するなど、下品の極み。
応答する必要などない。
これがわたしの判断だ。
ヒステリーオッサンはヒートアップして同じことを絶叫する。
またフロアが凍りつく。
えらいジイサンたちは画面の一点を見つめて固まっている。
同僚は目を見開いてわたしから目を逸らした。
麗しの秘書さんたちはスケジュール帳を持って背を向けてしまった。
えらいジイサンたちよ、会社でヒステリー起こしちゃダメって注意してくれないか。
してくれないな。
仕方がないので、わたしはオッサンを椅子ごと蹴り倒そうと思って席を立った。
オッサンの席までには4〜5人の社員が座っている。
オッサンの椅子が見えてロックオン、と思ったがダメだ。
蹴り倒した先には別の机がいい角度で置いてあるではないか。
机の角にオッサンの頭が当たるかもしれない。
血が出ちゃう。血が出るのはダメだ。
血どころか、魂が出ちゃうかもしれないぞ。
では「表へ出ろ」だな。
これは決闘罪に該当するんだっけか、なんて考えながらオッサンの席に着いた。
三白眼気味にオッサンをガン見したわたしは
「気持ちが落ち着いたら、もう一回言ってもらえますか」と低い声でゆっくりはっきり言った。
席を立ってから10秒くらいで大人になっていた。
すごい成長だ。
オッサンの答えを待たず、わたしはまっすぐ自席に戻った。
フロアは凍りついたままだ。
そしてオッサンのヒステリーは別の社員に向けられて、朝の地獄絵図は続いたのだった。
サラリーマンの朝は長い。