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ステキにわたってみせるさ
「キューバ・サンドが食べたくて、キューバに行ってきたんです」
立派な橋のたもとでサンドウィッチをかじる女の子の写真。さっきぼくをフッた女の子と、はじめて出会った日の会話を思い出した。
勘違いの恋だった。考えや行動が何度も一致して、ぼくはそれが運命に思えた。
「マスター。キューバ・リバー!」
なんでぼくは傷口に塩を塗るようなことをわざわざしているのだろうか。ぼくの町の小さなバー。バーという名の、小さな飲み屋。みるからにやけ酒のぼくに、誰も寄りつきはしない。みんな、機嫌のいいときにはちやほやするくせに。この前失恋をしたと号泣していたから慰めた女の子なんて、ぼくのことは知らんぷりをしてケロリ顔でお酒を飲んでいるよ。
キューバ・リバーがぼくの手元に運ばれた。それで最後にしなよって、この前慰めた女の子がぼくのとなりに座った。いまさらおせーよバカ!とは言わずに、ぼくは無視してキューバ・リバーを一気に半分飲んだ。
キューバの川。あの子が渡った、想像もできない国の川。ぼくはあの子と、その辺のよく知ってる川のひとつさえ渡ることができなかった。
資本主義を、アメリカン・ドリームを夢見たキューバのひとたちは、どうやっても海を渡れないことをナルシスティックに自虐して、キューバ・リバーって、名付けたのかな。
酔っ払った頭で考えた。横に座った女の子に、思いついたことを話してみた。
女の子は意外そうな顔をして、言った。
「リバーって川じゃないよ。自由。革命で得た自由を祝ったお酒なんだよ。キューバ・リバー。」
女の子は、ぼくのことを見ないで話し続ける。
「ずっと勘違いしてなよ、いつか勘違いが正解になるまで。それがあなたに似合っているよ」
渡れないと思っていた大きな川は、自由の象徴だったのだ。ぼくはキューバ・リバーを飲み干す。自由を内臓いっぱいに味わった。最後にもう1度だけ、勘違いをしようと思う。
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