Wish you be always filled with happiness
今朝、私に届いた、見知らぬ誰かからのメッセージ。
私は、通勤電車の中では、極力「スマホ」は見ないようにしている。その理由は「公共の場では、なるべく周囲に気を配るべきだ」と、”かなり本気で”思っているから。でも片道のべ25分、ただ「気を配る」だけでは流石に辛いので、ついでに「人間ウォッチング」や「マーケティングごっこ」「ひとりクイズ」などもしている。例えば「どんな服やバッグ、髪型やメイクが流行っているのか」とか、「駅によって、乗り降りする人に、どんな特色があるか」とか、「ひとり年齢当てクイズ」「ひとり職業当てクイズ」など。もちろん答えはないけど、自分が「何を手掛かりに当てに行っているか」がわかる。あとは時々「N研」の広告の入試問題を解いてみたり、教習所の「ふきだしコンテスト」のおもしろ回答を考えてみたり。そして、それでもやることがないときは、“車内にある文字という文字”をひたすら読む。中吊り広告の見出しはもちろん、誰かの服についたブランドタグの文字、ちらりと見えたLINEのメッセージなどなど。悲しいかな、もうそれは、半分「癖」になってしまっている。そんな私に、今朝、天からのメッセージが届いた。
今朝のI線N駅のホームに電車が到着して、動き始める人の列に続いて乗り込もうとすると、その列ががすぐに止まる。それは、セーターにシミとしわのついた30代女子(じょし?)と、大きなリュックを背中に背負ったままの若者と、濡れた傘を開いたままの中年男性といった方々が、”車両の中程にお進み下さら”ずに、乗り口付近で立ちどまっていたからだ。”中程”はものすごくガラガラなのに。
私は「もうッ。*%$’&”#!」と、心の中で眉間にしわを寄せながら、彼らをさりげなく“中程”に押し込みつつ、なんとか列車に乗り込んだ。すると30代女子(じょし?)はつり革に掴まることなく、若者はリュックを前に抱えることなく、中年男性は濡れた傘を閉じることもなく、それぞれにスマホを取り出した。その画面には、ぷよぷよしたカラフルな物体や、幼い顔をした女の子のイラスト、緑色の草原に紅白のボール。揃いも揃ってみなスマホゲームだった。座席には、目の前に妊婦が立っているのにも気付かず、左右のイヤホンからベース音をだだ漏れさせている人や、鼻先30cmのところにはマスクもせず咳き込む人まで。
そして、彼らの手にもスマホ、スマホ、スマホ。
私は「ったく。それって、いい歳した大人が混雑した車内でどうしてもしなくちゃいけないことなのかよ!*%$’&”#!」と、心の中で眉間にしわを寄せながら、それらを視界から排除すべく約125度の方向転換した。すると……。
「Wish you be always filled with happiness.」
それはまるで、妖精が書いたのかな?というくらい、
小さな小さな文字だった。
目の前の女性が目深にかぶるアイボリー色のニット帽。その縁に、約2cm四方の「タグ」が付いていて、私はいつもの「癖」で、そこに書かれた、小さな小さな文字を読んだのだ……。
「Wish you be always filled with happiness.」
どうせ「漂白剤は使用しないでください」的なことが英語で書いてあるのだろうと思っていた私は、不意を突かれた。
「あなたの日常が、いつも幸せで包まれていますように」
意味を理解したとたん、それまで抱えていた怒りが、すぅーっと消えていった……。
例えば、このニット帽をデザインした人、ここにタグをつけようと提案した人、それを採用した人、タグに文字をプリントした人、タグを帽子に縫い付けた人、そして、その帽子を買い、今日被ってきた目の前の女性。その誰か一人でも“それ”をしなかったら、私にこのメッセージが届くことはなかったはず。
そもそも、ニット帽をデザインした人は、数ある言葉の中から、どういう意図で、このメッセージを選んだのだろう。もしかしたら「何かそれらしい英語をプリントしておいて」的なことを上司に言われて、どこかからテキトーに拝借してきただけの言葉だったのかもしれないし、はたまた、たくさんの人にこの帽子を買ってもらえるようにという「緻密な戦略」だったのかもしれない。でもまさか、私のような、本来帽子とは全く無関係の人間が、苦痛な満員電車の中で、このメッセージに心を洗われる、なんてことまでは、きっと想像していなかったのではないかしら。
でも、その言葉は、私に届いた。こんな風に、意外な形で。
……人と人はこうして言葉で繋がっている。
世の中は、そんなメッセージの数々でできているのだ。
私は、この言葉を届けてくれた全ての人に
「ありがとう」といいたくなった。
直接伝える術はもちろんないけれど、きっと届く
その方法を、私は知っている。
この文章を読んだ、あなたの今もまた、
幸せで包まれていますように……。
#君のことばに救われた