夏のキャンプ1 思い出(実話)
私が小学生6年生の夏。おやじの会という組織の集まりでキャンプに参加したことがあった。
学校の友達とお泊まりするなんて当時の私には特別なことだったし、さらには合法的に夜更かしが許可されるなんて夢のようなイベントだった。
家から1時間ほど車に揺られつつ、途中のスーパーで食材を買ったり、いつもは買って貰えないようなソフトクリームに大いにはしゃいだ記憶がある。
利用したキャンプ場の名称は覚えていないが、少年自然の家という青少年育成施設を備えた海辺のキャンプ場だった。砂浜は真白で、嫌な泥臭さはなく、海の色も透き通った青緑色だったと記憶している。
大人になってから知ったが、県内でも有名な景勝地だったらしい。
4〜5家族で現地集合し、昼間はバーベキュー、夜は天体観測にキャンプファイヤー、次の日は宝探し…私達を飽きさせないため、大人たちが用意したイベントに胸を躍らた。
お昼ご飯のバーベキューが終わり、重いコットン製のテントを組み立てるという段になったとき、今回参加予定の一家族から遅れて参加する旨の連絡が入った。
なんでもその家族のお母さんの体調が優れず、早朝から頭痛が酷いため様子を見ているということだった。
楽しみで眠れなかったのかななどと呑気に捉え、今夜の寝床作りに取り組んだ。
松林の中には所々テントを張れる広い場所があり、〇〇家はこっちに、〇〇家はあっちにと言う流れで各家族のテン場が決まる。
その時、私達の数十メートル先に海を眺める人影がいることに気づいた。
今で言うソロキャンプの方だろうとさほど気に留めず、テントの組み立てを開始した。
私含め、子供達がテントを張りたがるため余計な時間がかかる。小一時間くらいかけてテントを完成させた頃、海を眺める人影は姿勢を変えず佇んでいた。
まだあそこにいるね。なにしてるんやろうね。ひそひそとやりとりしながら、微動だにしないその人を眺める。
私の父とOさんの父が、その人影に挨拶をしてくることになり、ゆっくり近づいていった。
かれこれ数時間は同じ場所、同じ姿勢(と思われる)でじっとしているのならば、最悪不審者という可能性もあるからだ。
私は松の木の間からその人影を眺めていたが、2人と人影の距離が5メートルほどの距離になった時、父は小さく体を震わせ、明らかに動きが止まった。
そしてすぐ「こっちをみるな。」と叫んだ。さっきまでの楽しい雰囲気が一変、大人が焦っている様子に不安が湧き出し、異様な空気が漂ったことをよく覚えている。
見るなと言われると見たくなってしまう。少なくとも私はそんな子供だったし、今でもそうだ。
杉の木に寄りかかる形で海を眺めていた人影は、よく見ると首の角度が下がりすぎており、顔は地面に向けられていた。最初から海など眺めてはいなかったのだ。
頭の重さのためか、首はだらんと垂れ、そこから見える首筋は異様なほど白かった。
そう、おじいちゃんが棺に入れられ、鼻の穴に綿が詰められたときの様な。今まで人だったものが物体と化した状態に近い感じがした。
その人は既に亡くなっていたのだ。
夏のキャンプ2 思い出に続く
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