「ドーナツ屋の夜のつれづれ」の話
10月15日に富士見L文庫から「ドーナツ屋の夜のつれづれ」という小説が発売しました。
日本で小説の単著が出るのは、2020年の「京都烏丸のいつもの焼き菓子」からなんと四年ぶりです。四年の間、別に休んでいたわけでもなんでもなくずーっと小説は書いていました。Kindleで個人出版したBL小説の翻訳が台湾で出たり、R18文学賞の友近賞をとったり、note創作大賞でミステリ長編が入選したり、BLの同人誌をいっぱい出したり、商業小説の企画がつぶれたり、別の企画がつぶれたり、色々ありました。色々……。色々……………。
なのでちゃんと本が書店に並んでいるのを見て、「おお……」と、不思議な気分です。商業では色々うまくいかないことが多かったので、この本に関しては本当にすんなりと話が進んで実感が沸かないところがあります。
現代ものの書下ろしを、という依頼だったので、いくつか思いつきをお話して、そのうち「深夜のドーナツショップ」という案にすぐにOKをいただけました。いつか書きたかった題材なのでとても嬉しかったです。
富士見L文庫はライト文芸、キャラクター文芸、なので、これまでよりもキャラクターを立てた話にしたいな、と思い、「ぱっと見はちょっと危ない雰囲気だけど優しいイケメンのお兄さん」というキャラクターを軸にしよう、と考えました。相手役は、と考えた時、危ないお兄さんなので女性相手だとちょっと安心感がないかな、と思い、男の子にしました。そして私はおばあさんと青年という組み合わせが好きなので、信也のおばあさんのカナコというキャラクターを二人の間に挟むことにしました。
プロットを作って送ると、わりとすんなりOKが出ました。
一話に当たる部分を書いて送るとお褒めの言葉とともに(ありがとうございます)そのまま進んでいいという許可が出ましたので、そのまま書きました。書いているときもなんだかすんなりと、自然な感じで言葉が出てきました。夜に書いていることが多く、私も舞台になる「カナドーナツ」にいるような気分で書いていました。ドーナツも、結構食べました。夜のドーナツ、おいしいから……。(夜のドーナツが好きなのって、江國香織の「きらきらひかる」の影響かもしれません。)
完成したものを送ると大筋でOKが出ましたが、店の位置関係が不明瞭(ちゃんと決めないから…)というものをはじめとしたもっともなご指摘をいくつかいただきました。
また、もう少し文章を読みやすくしたほうがこの話にはいいのではないか…ということで編集さんと意見が一致したので、普段より柔らかく軽い感じの文章にさらに直しました。もともと読みやすい文章にしようとはしていたのですが、気が付くと改行がなくなってしまうんですよね……。
私自身、余裕がない時期はあまり本を読むことができないタイプなので、そういうときにも優しい読み口で、ちょっとした楽しみになれるような本になっていたらいいなと思いました。
とにかく読みやすく、キャラクターが魅力的な一冊を目指しました。
青井秋先生には大変素敵なイラストをいただきました。
一枚の絵として華やかでおしゃれで、それでいてレンと信也の二人に注目するととても魅力的で、お互いの表情だけで関係性がわかるような、素晴らしい絵です。
その絵を活かして本としても大変素敵にデザインしていただきました。ありがとうございます。
前作から四年、執筆上でもプライベートでも色々とありましたが、この本がここにあることで四年が無駄になっていないと感じます。
ですがそういう私の思い入れとは関係なく、楽しく読んでいただきたいです。
よろしくお願いします。