家系図を作ってみよう
私は、行政書士や自分史活用アドバイザーやキャリアコンサルタントとして、人のお話をお聞きする機会が多くあります。
今の取組みや、これから取組もうとされることの背景にご両親やご親族の強い影響があるとこに、気付かされることかよくあります。
親の後姿を見て育つ、という言い方がありますが、そういうことなのですね。
そのご両親もまた更にご両親の後姿を見てきたのですね。
他方、あなたのお母様の高校生の時の様子を思い浮かべられる方は、いらっしゃるでしょうか。
お父様が、初めて始められた仕事でどんなことを担当されていたのか、、、。
案外わからないものです。
おじいさんの名前はご存知でも、ひいおじいさんの名前をご存知の方はどのくらいいらっしゃるでしょうか。
私たちに強い影響を与えている、私たちの上の世代のことを、案外知らないのです。
それを調べてみたくありませんか。
まずは、登場人物の調査から。
ここで大切なのは、調べる目的です。単に家柄がどうかとか、家は京都の公家につながっていとか、そういうことを自慢したいがための調査ではないのですね。
登場人物の調査、つまり家系の調査のやり方の基本的なことについて、ご説明したいと思います。
日本の、人に関する把握の仕方は、ご存じの通り、江戸時代と明治時代からとで大きく変わりました。
江戸時代は、武士は各藩で管理し、それ以外の身分の人については、いわゆる過去帳で管理していました。
明治に入って戸籍制度が設けられ、統一的な把握が行われるようになったのです。
この戸籍制度、つまり家族単位で人を把握する制度は東アジアに特有の制度で、現在は日本以外では、台湾と中華人民共和国で行われているようです。
イギリスやアメリカでは、基本的に個人単位の登録制度で、親や子を特定することは基本しないので、登録制度を使って家系を遡ることはないそうです。
フランスは、個人単位の登録だけれど、親の情報などが記載されているので家系を追いかけるとこは可能だそうです。
ドイツでは、家族単位の登録ですが。日本の戸籍の筆頭者という概念はないものの、戸籍制度とどう違うのか機会があったら調べてみたいものです。
こうしてみると。英米法と大陸法の系統、大陸法でもフランス法とドイツ法の違いが、このようなことにも表れていて面白いものだと思います。
さて、明治期に作られた日本の戸籍制度ですが、全国的に初めて行われたのは明治5年のことでした。
壬申戸籍と呼ばれる戸籍です。
ただこの戸籍には、江戸時代以来の身分が掲載されていたことや、犯罪履歴等も登録されていました。
そのため、法務局に密かに保管されてはいるものの、行政文書には該当しないという理由で、非開示という扱いとなっています。
次に整備されたのが、明治19年の戸籍で、残されていれば、この戸籍までは遡ることができます。西暦に直すと1886年になります。
この時に生きていた方全員が登録されているはずなので、19世紀の初頭生まれくらいまでの方は、うまくいけば、把握できる可能性があります。
うまくいけば、とか可能性があります、とか申していますが、たまたま世代の区切りで祖先にこの世代の方がいなかったりすると、ここまで遡れないとこになってしまいますし、そもそも戸籍が滅失してしまっていることもあり得るのです。
戦争や災害でなくなってしまった場合が考えられます。
もう一つ、戸籍の保存年限の問題があります。平成20年までの戸籍の保存年限は、除籍から80年間と定められていました。平成21年に150年と大幅に保存年限が拡大されています。
平成20年は2009年ですので、1929年までに除籍になっていた戸籍は廃棄されている可能性があります。
この場合も、廃棄されずに残されている場合もあります。
災害や戦争の場合を含めて請求してみないと、どの範囲の戸籍謄本が手に入るかはわからない状態です。
前段が長くなりましたが、いよいよ戸籍謄本を集めてみましょう。
戸籍は、市町村で管理されていますので、謄本の請求は市町村に対して行います。
本籍がある役所がお住いのお近くでしたら、まずは足をはこんでみましょう。
住民票や印鑑証明等の書類を発行する窓口が大抵どこの役場にも設置されています。戸籍謄本もそこで請求することになります。
以前と違って役場は親切になりました。
目的をお話しされれば、どの書類にどのように書いたらいいのか教えていただけます。
そのようにすると、次ページのような書類を受け取ることができます。
まず、本籍と筆頭者が記載され、次にこの戸籍が作られた理由が書いてあります。
この見本の場合は、改製された、とありますね。
戸籍の様式は折に触れて改められています。
それまで三世代が一つの戸籍に収められていたものが、二世代になったり、縦書きだったものが横書きになったり、記載されている内容に変わりはないけれど、フォーマット等が変わったことによる変更です。
その後に記載されているのは、この戸籍に登録されている人の名、この場合はまず太郎さん。
この人を特定するための生年月日と両親と続き柄が記載されています。次いで身分事項として、この場合は出生と婚姻が記載されています。
続いて花子さん。
太郎さんと花子さんの現在の状況についてはこれでわかるのですが、太郎さんは再婚かもしれません。
そのようなことについては、順次戸籍を遡っていく必要があります。
つまりまずは、改製前原戸籍を調べる必要があります。どこかからか、転入している場合は、その前の戸籍を順番に追っていく必要があります。
太郎さんの出生まで遡ったら次は、太郎さんのご両親である一郎さんと桜子さんについて同じように遡っていくのです。
一族が、ずっと同じところに住んでいる場合は、戸籍を見ながら順番に役所で追跡すればよいですが、多くの場合そうはいきません。
どこか別の地方のご出身という場合は多いですね。
その場合は、どうしたらいいのでしょうか。
その場合は、以前住んでいた住所地の市町村役場に請求することになります。
一度、家族が住んでいた町の雰囲気を味わうために足を運ばれるのもいいかとは思いますが、なかなかに大変なことですね。
郵送でお願いすることができます。
下図は郵送の申請書の例です。
該当する市町村のホームページを検索すると郵送でお願いする場合の様式が掲載されています。
この様式で申請しないと交付しません。ということではありませんが、申請にあたって必要事項は網羅する必要があるので、この様式を使うのが間違いがないと思います。
これは東京都北区役所の請求書です。自治体によって様式はまちまちです。
ここで重要なのは、誰の戸籍がほしいのか、何の目的で調べるのか、ということです。
私たちの場合は、家系図調査のため、本籍××の◎◎の戸籍が欲しい、ということを明らかにすることになります。
家系図調査なので、本人の出生から死亡までの間の役所にあるすべての記録を交付してほしい、と明記しましょう。そうしないと全てを交付してもらえない場合が出てきてしまいます。
戸籍謄本などの交付には手数料がかかります。
書類が何通になるかわからないので、少し多めに、私の場合は3,000円分くらいの定額小為替を同封しています。おつりは定額小為替で返送してくれます。
忘れてはいけないのは、返信用の切手を貼った封筒です。
さて、ここで一旦話題は変わって戸籍を取れる範囲の話しです。
戸籍を取れるのは、直系の方に限られています。具体的には、上の図のような範囲になります。
そこを外れると、請求しても交付は拒否されますのでご注意ください。
つまり、広い範囲の戸籍は一人ではとれないのです。その場合は、いとこやおじさんの協力を仰ぐ必要があることになります。
それは先々の話しとして、まずは直系から取得するとよいと思います。
とはいっても、同じ戸籍に入っている人は戸籍に載ってきますから、その範囲ではわかることになります。
戸籍の請求に当たって、戸籍を請求する方と、ご本人との関係がわかるような、戸籍の写しを添付することが必要になってきます。このことについてもご注意ください。
さて、そうやって進めていくと、いろんな戸籍が集まってきます。
冒頭に掲載したひな形は現在の戸籍です。A4縦型に横書き。
下記の戸籍は除籍簿といいます。
除籍謄本は、戸籍に掲載されている全員が別の戸籍に移ったり、お亡くなりになったりした戸籍のことです。ここにも記録が書き込まれている重要な書類です。
これはA4縦書きの時代のフォーマットです。
上の二つのサンプルの内、下側に掲載されているのは、改製原戸籍です。
改製原戸籍の読み方は「かいせいげんこせき」なんだと思います。そうすると略称は「げんこせき」となりますが、これだと「現行戸籍」と紛らわしいので、通常「はらこせき」といいまます。
戸籍係の人が普通に使う用語ですので覚えておかれるといいと思います。
戸籍係の方とのやり取りでは上記のことがありますが、当方としては、どんな様式でも様式の名前はどうでもいいのです。とにかくご先祖様にかかわる、戸籍の全てを集めきることが大切です。
そして、集めた戸籍謄本に書かれていることをひとつひとつ読み取ってください。
読んでみると、そうか、あのおじさん再婚だったんだ、とか、いろいろ知らないことがわかったりするものです。
解読したことを、書き留めていくのですが、まずは、手書きで系図を作ってその脇に判明したことをメモしていくのがいいかと思います。
読み取っていくときに大変なのが、筆文字の謄本です。
墨がつきすぎた筆で描いたために画数の多い文字がつぶれてしまったり、逆にかすれて読み取りにくかったりということがよくあります。
加えて、私たちを混乱させることがらがいくつかあります。
その最初というか最右翼に相当するのがへんたい仮名です。
上記は「あ」のへんたい仮名です。
Koinとか奔行とかいうのはへんたいかなを整理し、フォントにしたものです。
最後に示されているのは、戸籍での解読のために例示されているへんたいかなです。あくまでも例示なのでこれ以外にも出てくる可能性があります。
つぎに「は」です。これは「あ」に比べて複雑です。
もう、茫然としてしまいますね。
これに旧字体があります。というよりは、筆の戸籍の当時は旧字体の方が普通ですよね。旧字体には異字体というものがあります。
へんたい仮名よりは目にする機会は多いと思いますが、これも読みづらいことがあります。
加えて、合字というものがあります。
〆は今でも使いますね。
ゟなんていうのもあります。
一の下に「と」と書いて「こと」と読んだりもするようです。
私は未だ見たことはありませんが、藤の月と泰の間に原を書き込んで藤原と読むようなのもあるようです。まあ、戸籍には出てこないかもしれませんが。
これらも考慮しつつ、じっくり読み下していく必要がありますね。
これ以外にも書き間違えなんていのこともまれにはあります。
私も一度こんなことがありました。ちいさな筆文字の戸籍を読んでいて、どうしても一文字よめないのです。
地名辞典で検索してもそこに一文字入る地名は存在せず、人名としても読み取れないのです。
困り果ててしまって、その一文字をとばして、追加の戸籍謄本を請求したら、あっさりとることができたのでした。
誤字なら塗りつぶしてくれればいいのですが、そこまではしていなかったので、誤字であることに気づかなかったのですね。
そういうのも楽しみといえば楽しみです。楽しみながら、まずは戸籍を読み下してください。
まずはそこからです。
次に、それをもとに、更に遡るのか、それとも、掛け軸にするのか。
私は、これをきっかけに、ご先祖が住んだ地域の、ご先祖が生活した時代のことを調べてみることをお勧めします。