海外トップジャーナル掲載!中川先生の新発見「乳母企業家」
自分すっかり忘れていたのですが、イノベーション分野の海外トップジャーナルのひとつ、Technovation(テクノベーション)に掲載された論文がオンラインで掲載となっていました。九州大学の高田仁先生たちと書いた論文です。大学発技術が商業化されるにあたって、研究者と企業家とをつなぐ、また別のタイプの企業家的存在Nurturing Entrepreneur(乳母企業家)があることを、事例から発見した研究です。
例によって動画で説明もしていますが、改めてその発見を要約・説明してみると、確かにこの研究はけっこう社会的にも学術的にもインパクトのある研究ができたのだなと思います。
Takata, M., Nakagawa, K., Yoshida, M., Matsuyuki, T., Matsuhashi, T., Kato, K., & Stevens, A. J. (2022). Nurturing entrepreneurs: How do technology transfer professionals bridge the Valley of Death in Japan?. Technovation, 109, 102161.
大学発のハイテク・イノベーションが超えるべき3つの関門、魔の川、死の谷、ダーウィンの海。それぞれ、実用化、製品化、事業化が該当するわけですが、それぞれに求められるスキルが異なります。これに対し、大学研究者と企業家それぞれのスキルを当てはめていくと、重要な抜け漏れがあることがわかる。「研究シーズを生き延びさせ、リソースを与え続け、芽が出る所までもっていく」技能です。
この仕事は一般に大学内外の【技術移転人材】と呼ばれる人材が担いますが、従来は、ライセンシング法務だとか営業などを担うとされてきました。しかし、優れた技術移転者の定性的調査から明らかになるのは、技術移転人材はごく企業家的な行動をとっているということ。リソースをかき集め、その資源で何が構想できるかを考え、仮説検証を回していく…という行動様式を採用しています。
そこから、ハイテク技術を世に出していくにあたっての、現在のプロセスモデルで抜け落ちている重要な役割として、Nurturing Entrepreneurという存在がいる、とした論文です。
逆に言うと、大学発ハイテクベンチャーは、こうした人材の支援がないと厳しいということでもあるかと思います。研究上のエキスパートも、ビジネスのエキスパートも、「研究シーズを生き延びさせ、リソースを与え続け、芽が出る所までもっていく」エキスパートではないのです。世の中にはそれに長けた、実に特異なスキルを構築した【技術移転人材】が、ほんのわずかだけ存在していて、そうした人たちの働きによって、日本でも米国でも、大学発ハイテクベンチャーが育っている。そんな実態を描いた論文でもあります。
大変有難いことに、発表からわずかに数か月で非常によく読まれ、引用される論文になっています!大学発技術の商業化という事象の解明に貢献できたという意味でも、またその実務的示唆が出せたという意味でも、実務に役立つ科学たるべしという、私の理念とする経営学研究ができたなあと感じているところです。
論文へのリンクは以下ですが、近年は学術論文でアホみたいに高いんです…。もうちょっと詳しく知りたい、という方は10分でわかる動画をご覧いただくか、中川までアクセスしてくださいましたらと存じます!
論文へのリンク
https://www.sciencedirect.com/.../pii/S0166497218305984...
https://doi.org/10.1016/j.technovation.2020.102161