日本のホスピタリティの強みは「型」「道」「空気を読む力」。それは日本の課題とも表裏一体。
最近は天目茶碗でいただく抹茶にはまっています。今泉毅先生作の窯変天目は本当に美しい。テレワークの中で、日常に彩を与えてくれる。コーヒーばっかりの生活に変化を与えてくれます。
そんなこんなで最近茶道のこととか学んでいるのですが、この「道」たるものが、どうやら日本的なマーケティングやサービスの極意「おもてなし」の鍵であるということを教えてくれるのが、関西大の名伯楽・佐藤善信先生がお弟子さんたちと執筆された「響創する日本型マーケティング」。
個人的にはものすごく刺激的に読んだ本です。でもそれは、たぶん佐藤先生たちの執筆の狙いとちょっと違うっぽい。というのは、佐藤先生たちは基本的にポジティブな視座で「おもてなし」たるものの構成要素を分析しているわけですが、そこには表裏一体で日本社会の抱える課題をも読み取れると思ったからです。
とはいえ、そうしたニュートラルな目線で、ものごとを虚心坦懐に見させてくれる書きぶりと読解を許すことこそが、佐藤先生が名伯楽たるゆえんでしょう。
①同書第1章、Al-alsheikh先生による「日本型おもてなしの源流」。
おもてなしの本質を「型」(kata)そして「道」とみる。日本社会を構築するものとは、「正確な型」であり、それをまず徹底的に身に着けることがスタートとなる。
食べ方、歩き方、考え方、読み方、書き方、話し方、やり方。
日本という社会を構築しているのはすべてこのkataなのだと。
そして、kataたるものをしっかりと伝承するシステムが、武士道などの「道」であると。
確かにそうだ。私達は生まれついてから何を学ぶにも、徹底的にkataを仕込まれ、その中で道を見出す。そうして伝統と、そこに息づく精神性が守られる。
第3章。相島淑美先生の「おもてなしにおける場」。
相島先生は、おもてなしの本質を「空気を読む力」と分析する。日本の芸術は軒並み「間」の芸術であり、それは場の空気と、物理的空間、客、そして主自身に意識を張り巡らし、すべてを混然一体として一期一会:その場限りの場をつくり上げる。その本質が、主による空気のマネジメントだと分析する。
…読み手と、社会的コンテクストによって、これほど感じ方が変わりうる分析も珍しい。素直に読めば、おもてなしたるものを構成するための方法論ですが、そこには日本社会のひとつの課題もまた浮かび上がってきます。
私達の文化、本質、伝統、特徴を守りたいならば、型を守り道を学ぶこと、空気をこそ理解できるようになること、それらが必要不可欠だ、というわけです。
型。道。そして、空気。
これらが日本の伝統であり、固有性あるサービス競争力の源泉であることは間違いない。
しかし、「型」にはまらなければ「道」を外れたとみなされるのも日本社会の特徴。そして、「空気」を重んじて混然一体たる調和が作れなければいけないのも日本社会の特徴です。
「おもてなし」の分析からは、私達の社会の否定しがたい一面が浮かび上がってきます。これと、どう向き合っていくのか。
天目茶碗でいただく抹茶の美味しさに元気づけられて、ひたすらにテレワークで商いに向かう自分の姿は、なんとも、型も知らず、道も知らず、空気も分からずで、無粋だなと思いつつ。
私達の社会の向かうべき方向は、道を究めることなのか、未開の荒野を切り拓くことか、はたまた、どこへ行くともなしの気の向くまま、か。
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