慢性痛治療における貼付剤の効果に関する検討
慢性的な痛みを訴える患者さんの中には、効果が強いはずの消炎鎮痛内服薬(飲み薬)よりも、消炎鎮痛成分が主成分の貼付剤(貼り薬)のほうが「よく効く」という方もいらっしゃいます。局所への浸透率や血中濃度で考えると決して「よく効く」はずのない貼付剤が、なぜ「よく効く」のでしょうか?
疼痛治療における貼付剤の効果、特にプラセボ効果について先行研究をもとに調べてみました。
貼付剤の効果とメカニズム
貼付剤は、局所的な疼痛管理に使用される薬剤で、皮膚に直接貼ることで有効成分を浸透させ、痛みを軽減します。主なメカニズムとして、以下のようなものがあります。
1. 炎症を抑える
多くの貼付剤には抗炎症成分が含まれており、局所的な炎症を軽減することで疼痛を和らげます。
2. 血流を増加させる
メチルサリチル酸やメンソールは血流を増加させ、炎症を抑える効果があります。
先行研究
以下に示す先行研究では、貼付剤の有効性とともにプラセボ効果についても検討されています。
参考文献①
S. Derry, R.A. Moore, R. Rabbie
Topical NSAIDs for chronic musculoskeletal pain in adults.
Cochrane Database Syst Rev, 9 (2012), p. CD007400
・外用ジクロフェナクと外用ケトプロフェンは、変形性関節症の痛みに対して、外用プラセボに比較して良好な疼痛緩和効果を認めた。
・外用プラセボによる有意な疼痛緩和を報告した参加者の割合は、6~12週間で約50%であった。
外用プラセボでの奏功率は 経口プラセボの 約2倍であった。
・効果の一部は、NSAIDの有効成分を含まない基材自体のプラセボ効果であり、NSAIDsがその効果に追加的に寄与している可能性がある。
参考文献②
F. Rannou et al.
Efficacy and safety of topical NSAIDs in the management of osteoarthritis: Evidence from real-life setting trials and surveys
Seminars in Arthritis and Rheumatism 45 (2016) S18–S21
・NSAIDs外用剤は、国際的ガイドラインにおいて、膝関節および手関節OAの対症療法における早期治療の選択肢として推奨されている。
・NSAIDs外用剤の有効性は経口NSAIDs薬と同等であり、リスク・ベネフィット比が優れているという利点がある。
・実臨床試験において、NSAIDsの外用薬と経口薬は、1年間の治療で膝関節痛に対して同等の効果を示し、NSAIDsの外用薬では、経口薬と比較して、有害事象が少なかった。
・炎症性リウマチ性疾患においてNSAIDs外用薬を使用すると、NSAIDs経口薬併用の必要性が40%減少し、消化器系副作用の報告も減少した。
・ケトプロフェン外用薬の有用性は証明されず、研究で用いられた外用プラセボに高い効果が認められた。
・特に75歳以上のOA患者、合併症を有する患者、心血管系、消化管、腎臓の副作用のリスクが高い患者では、 NSAIDsの経口投与よりNSAIDs外用薬が好ましい治療選択肢となる可能性がある。
プラセボ効果の要因
プラセボ効果には、様々な要因が影響を与えます。これらの要因は、患者が治療に対してどのように反応するかに大きな影響を及ぼします。以下に主要な要因を示します。
1. 期待感
患者が治療に対してポジティブな期待を持つことが、プラセボ効果を強める主要な要因です。期待感は、脳内の報酬系を活性化し、内因性オピオイドやドーパミンの放出を促進します。
2. 条件付け
過去の治療経験がプラセボ効果に影響を与えることがあります。例えば、以前に有効だった治療がプラセボとして再現されると、身体が反応することがあります。
3. 医師-患者関係
信頼できる医師や医療スタッフとの良好な関係は、患者の期待感を高め、プラセボ効果を強化します。医師の態度や説明の仕方が患者の信頼を得る重要な要素です。
4. 治療環境や形式
治療が行われる環境や形式自体がプラセボ効果を引き起こすことがあります。治療の形式や視覚的、感覚的な要素が患者の治療効果の感じ方に影響を与えます。例えば注射の方が内服よりも効果が高くなることがあります。
5. 心理的要因
不安やストレスの低減、リラクゼーションなどの心理的要因もプラセボ効果に寄与します。これにより、疼痛の感じ方や他の症状が軽減されることがあります。
貼付剤におけるプラセボ効果
一般的にプラセボ効果といえば心理的効果を考慮することが多いですが、貼付剤については心理的効果以外に物理的効果もあり得ます。例えば、貼付剤が疼痛部位に接触しているという物理的刺激が疼痛閾値を上昇させる可能性があります。
プラセボ効果は心理的要因だけでなく、物理的要因も含まれることを考慮する必要があります。
貼付剤はその成分による実質的な鎮痛効果に加えて、プラセボ効果による疼痛軽減効果も重要であることが示唆されます。
貼付剤を用いた疼痛治療においては、プラセボ効果も含めた有効性を知ることで、さらに有益な治療が提供できる可能性があります。
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