【論文紹介】急性骨髄性白血病の免疫療法

2023年8月30日 Natureオンライン
"Epitope editing enables targeted immunotherapy of acute myeloid leukaemia"

昨今、血液がんの治療は目覚ましい進歩を遂げていて、多くの新薬が登場している。

分子標的薬の代表であるイマチニブをはじめとするチロシンキナーゼ阻害剤が治療を一変させたのは慢性骨髄性白血病で、血液がんは古くから治療法開発の研究が非常に盛んな分野である。

分子標的薬の次にがん治療のGame changerとして現れたのが免疫療法である。
Bリンパ球の細胞表面にあるCD20という蛋白質を標的とした抗体薬であるリツキシマブはB細胞性悪性リンパ腫の治療を変えた。投薬すると、ほんとうにみるみる腫瘍が縮小するので、自分がものすごい魔法でも使ったかのような錯覚すら覚えるくらいである。

抗体薬は多発性骨髄腫でも使用されていて、CD38蛋白質を標的としたダラツムマブやイサツキシマブは標準治療の重要なキードラッグである。多発性骨髄腫では免疫を介して作用するiMiDs(レナリドミド、ポマリドミドなど)も非常に重要な薬である。

PD-1/PD-L1に代表される免疫チェックポイント阻害剤も悪性リンパ腫の中のホジキンリンパ腫では有効性が確立しており、最近では自分の免疫細胞にがん細胞を認識する操作を加えてがん細胞を狙い撃ちにするCAR-T療法も出てきている。
免疫療法はいまや欠かすことの出来ないがん治療のキープレイヤーである。

しかし、急性骨髄性白血病は治療の開発があまり劇的に進んでおらず、何十年も同じ化学療法が行われている。
近年、遺伝子解析の進歩により、いくつかの分子標的薬が導入され、また急性骨髄性白血病で高発現している抗アポトーシス蛋白質であるBCL2を標的としたベネトクラクスはGame changerの一つだが、根治のために同種造血幹細胞移植が必須ということは変わっていない。

免疫療法も開発が試みられてきたが、なかなか上手く行っていない。
免疫療法において治療ターゲットとする蛋白質はがん細胞だけで出ているものでないと、正常な細胞も攻撃されてしまう。
悪性リンパ腫におけるCD20、多発性骨髄腫におけるCD38、急性リンパ性白血病におけるCD19など、がん細胞で特に強く出ている蛋白質があれば良いのだが、急性骨髄性白血病では正常な細胞でも出ているような蛋白質しか細胞表面に出ておらず、良い治療ターゲットが見つからないのが最大の障壁である。

本論文では、見つからないなら、細胞表面の蛋白質を操作して、正常な細胞とがん細胞の蛋白質が異なるようにしてしまえという非常に大胆な発想を見事に治療につなげている。

急性骨髄性白血病のがん細胞の表面に出ているFLT3, KIT, CD123という蛋白質は、正常の造血幹細胞や免疫細胞にも出ているが、これらの蛋白質に機能が失われない変異を加え、その変異を持つ細胞を骨髄移植すると、がん細胞と正常細胞は異なるFLT3, KIT, CD123を持つようになる。
そこで、がん細胞のFLT3, KIT, CD123だけを認識する抗体を使って治療すると、がん細胞だけがやっつけられるという戦法である。
抗体の認識部位に変異を入れることで、この難題を達成している。

まだマウスを使った治療実験であるし、ヒトに応用するには様々なことを検証していかないといけないが、発想が天才的であり、それを実現させる技術力も素晴らしい。
詳しくは本文をぜひ読んでいただきたいが、非常に感銘を受けた論文であったので、強くおすすめしたい。
今後さらに研究が発展し、白血病の治療が一変する未来が早く来ることを期待したい。

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