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「補完的保護対象者」でどれくらい救われるか、出入国在留管理庁は試算せず、今後も予定なし〜火事場泥棒根性が見え見え
古川法務大臣だけではなく、岸田首相も、ウクライナからの庇護希望者保護を前面に出し、今の法律では不十分なので、法制度の整備が必要、改正するなら一体的見直しが必要などと意見を述べています。
そこで、衆議院議員の本村伸子議員が、いくつかの質問を出入国在留管理庁にして下さいました。ご了解を頂きましたので、以下、その質問と回答を貼り付け、コメントします。
ウクライナ「避難民」に関する法務省の回答
1 「難民に準じて保護する仕組みの検討」とあるが、これは第204回通常国会に提出され、廃案となった「出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約 に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する法律案」第2条第3号の2で創設しようとした「補完的保護対象者」と同じものか、お答え下さい。
法務省回答 「難民に準じて保護する仕組み」とは、「補完的保護対象者」と同義である。なお、「準難民」という用語は、法務省は使用していない。メディアが分かりやすいから使っていると思われる。「準難民」は「補完的保護対象者」と同義と認識している。
「準難民」と言われているのが昨年の法案の「補完的保護対象者」であることがはっきりしました。これまで、「もし同じなら」という前提で議論していましたが、これでそういう断りは不要になりました。
2 「1」がそのとおりである場合、現在の出入国管理及び難民認定法61条の2の2第2号のいわゆる「人道配慮による在留特別許可」に比べ、「難民条約上の理由以外により迫害を受ける恐れのある方を適切に保護」(首相発言)できる方達は何人あるいは何パーセント程度増加するのか試算はしたのでしょうか。試算したのであれば、その計算過程及び計算結果をお示し下さい。
法務省回答 試算は困難である。試算の予定はない。
「補完的保護対象者」になれば現在より保護の範囲が広がる、という触れ込みですが、実際にはどれだけ保護できる人が増えるのか試算しておらず、予定もないとのこと。昨年も同じ質問をしましたが、試算していません。
国の政策なのですから、新しい制度作ってどの程度の効果があるかを予測し、それに応じて予算や人員配置を考えるのは当然です。それなのに「補完的保護対象者」がどの程度になるのか、今より人数が増えるのかどうかすら何も試算していないというのは、やる気がないことの顕著な表れだと思います。
本日入管庁の担当者から聞いた話
— 弁護士 児玉晃一 火事場泥棒を許すな 入管法案再提出反対 (@Koichikodama) February 26, 2021
・補完的保護対象者につき「迫害」「十分理由のある恐怖」の解釈を変えることはない
・現在の人道配慮による在留資格付与と補完的保護対象者とで保護される人数が増えるかどうかは不明
∴補完的保護対象者ができることで保護が広がるという論調は完全な誤りである
もっと保護できる、というのがなんら裏付けがないことが明らかになりました。
なお、全国難民弁護団連絡会議では、2017年から2018年までに現行法の「人道配慮による在留特別許可」を受けたとして出入国在留管理庁が公表している18事例のうち、もし「補完的保護対象者」という制度だった場合、どれくらい認定されるか試算したところ、なんと、13件は認定されないだろうという驚くべき分析結果が出ています。
3 2022年2月24日以後、現在まで日本政府が受け入れているウクライナ「避難民」の数を在留資格別にお示し下さい。
法務省回答 ウクライナ「避難民」の受入れ 全体で661人 (4月17日現在)
「特定活動」145人
「短期滞在」516人
4 出入国管理及び難民認定法別表第1の5「特定活動」の在留資格が認められる類型が現在何種類あるのか、お示し下さい。
法務省回答 50種類
5 同別表第2の「定住者」別表第2の「定住者」の在留資格が認められる類型が現在何種類あるのか、お示し下さい。
法務省回答 7種類
6 特定活動の告示40号では、一般に観光のための在留期間が90日間(短期滞在)であるところ、預貯金が3000万円以上ある富裕層については日本で観光するため最長1年の在留を認めています。告示48号では東京オリンピック関係者の在留資格を認めました。「特定活動」または「定住者」の在留資格が認められる類型を新たに創設するために、国会での法改正が必要か、それとも法務省の告示を作れば良いのかご教示下さい。
法務省回答 それぞれ法務大臣告示に追加する形で行う。
現在の法律でも、「定住者」「特定活動」は国会による法律改正ではなく、「告示」というもので様々な類型の在留が認められています。中には、質問6にあるように、3000万円以上の預貯金がある人の保養・観光とか、オリンピック関連とか。
ウクライナからの庇護希望者を迅速に受け入れようと思うのなら、告示を作れば良いだけです。
それなのに、去年廃案になった入管法を「補完的保護対象者」だけではなく、一体として提出した法改正まで必要というのは、「補完的保護対象者」の導入に目的があるのではなく、どさくさに紛れて昨年廃案になった入管法を通したいから、本当の目的は送還停止効の制限など、規制強化を狙っているからであえることは、明らかです。
見え見えな火事場泥棒根性です。