送還停止効の例外規定は東京高裁違憲判決によって封じ込められた
ご案内のとおり、チャーター便送還で裁判を受ける権利を侵害されたなど断じた東京高裁2021年9月22日判決、10月6日の経過をもって確定しました。
先ほどまで確定を受けた記者会見をしてきたのですが、そこでの質疑に対するやり取りをする中で、2021年5月18日に廃案になることとなった(けれども同じ形で再提出されると言われている)入管法案で提案されていた送還停止効の例外規定との関係について、自分の頭の中でも整理ができたので、書き留めておきます。
入管法の送還停止効例外規定
入管法改定案では、現在、難民認定申請手続き中の方は強制送還できないとする入管法の規定に対して、以下の例外規定を設けることが提案されていました(法案61条の2の9第4項。条文はこちらの113頁)。
①3回目以上の申請者(ただし、相当の理由のある資料を提出した者を除く)
②重大犯罪もしくは暴力的破壊主義者
3回目以上の申請者の送還停止効を外す趣旨
出入国在留管理庁が公表した「入管法改正案Q&A」ではこのように説明がされています(Q5)。
難民と認定されなかったにもかかわらず,同じような事情を主張し続けて難民認定申請を3回以上繰り返す外国人は,通常,難民として保護されるべき人には当たらない(申請時に難民と認定することが相当であることを示す資料が提出された場合を除きます。)と考えられます。
そこで,このような外国人については,今回の入管法改正法案により,送還停止効の例外として,難民認定手続中であっても日本からの強制的な退去を可能とすることとしました。
出入国在留管理庁が作成した「現行法の課題と改正法案の内容・効果2/5」というスライドにも、送還停止効の例外を設けることで、期待できる効果として
送還回避のために難民認定申請する者等を送還できる
と書いてあります。つまり、濫用防止ですね。
東京高裁判決の内容からすれば改定法案は論外
ですが、先にご紹介した東京高裁判決は、次のとおり判示しています。
控訴人らの本件各異議申立てが濫用的なものであり、救済の必要性に乏しいと主張するが、難民該当性の問題と難民不認定処分について司法審査を受ける機会の保障とは別の問題であり、当該難民申請が濫用的なものであるか否かも含めて司法審査の対象とされるべきであるから、控訴人らの難民申請にかかる上記事情を前提としても、そのことをもって、司法審査の機会を実質的に奪うことが許容されるものではない。
そうだとすると、司法審査を受ける機会どころか、出入国在留管理庁内部の審査すら遂げる機会を与えないで強制送還することを可能とする入管法案は論外、ということになります。
重大犯罪等の人についても同様
また、例外を設けようとした②重大犯罪もしくは暴力的破壊主義者についても同様です。
難民条約で送還禁止の例外として認められているのは、「当該締約国の安全にとって危険であると認めるに足りる相当な理由がある者または特に重大な犯罪について有罪の判決が確定し当該締約国の社会にとって危険な存在となった者」だけです。
第33条【追放及び送還の禁止】
1 締約国は、難民を、いかなる方法によっても、人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であることまたは政治的意見のためにその生命または自由が脅威にさらされるおそれのある領域の国境へ追放しまたは送還してはならない。
2 締約国にいる難民であって、当該締約国の安全にとって危険であると認めるに足りる相当な理由がある者または特に重大な犯罪について有罪の判決が確定し当該締約国の社会にとって危険な存在となった者は、1の規定による利益の享受を要求することができない。
東京高裁判決の趣旨からすると、条約上の例外に該当するかどうかについても、当然司法審査の機会を保障すべきなのですから、出入国在留管理庁が独自に②重大犯罪もしくは暴力的破壊主義者かどうかを判断して、強制送還できるような仕組みを作ることは許されないのです。
なお、難民条約33条2項に該当するとして難民を送還することが許容できるかどうかについては、相当慎重に判断すべきという意見を2021年4月9日付でUNHCRが公表しています。
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