【転載】難民認定の一次審査に平均2年8か月、標準処理期間の5倍超!長引けば申請者は疲弊する。だれが責任を取るのか
こちらも2022年5月23日の「論座」からの転載です。
この投稿時最新データであった2021年のデータに基づいて記述しました。
2022年は一次審査33.3か月と1.1月長期化しました。他方、不服申立は13.3か月と7か月以上も短縮しましたが、年間1000件処理された方がいるからでしょうか。
2023年5月16日、参議院法務委員会の質疑で、入管庁の西山次長は、「補完的保護対象者」が成立すれば、ウクライナの方々もこれに該当するだろうという見通しを述べていましたが、認定のためには、難民認定申請手続か、あるいは難民認定と同じ担当者が審査する補完的保護対象者認定申請手続を取る必要があります。両者は関連するので、同じ部署が担当するというようなことを述べていました。であれば、「補完的保護対象者」として認定されるまでには、難民認定同様、一次審査で30か月以上、二次審査でも1年以上の期間を要することが見込まれます。
難民認定の一次審査に平均2年8か月、標準処理期間の5倍超!
長引けば申請者は疲弊する。だれが責任を取るのか
2023年5月23日 児玉晃一
2022年5月13日、出入国在留管理庁が2021年中の難民認定者数等についての資料を公表しました。
令和3年における難民認定者数等について | 出入国在留管理庁 www.moj.go.jp
認定数や認定率については、既に色々なところから意見が出ていますが、私は審査期間に注目しました。
一次審査は標準処理期間の6倍、不服申立ても3倍以上
の6頁によれば
とされています。
標準処理期間は、6か月です(一次審査を対象とするもののようです)。
難民認定審査の標準処理期間に係る目標の達成状況について | 出入国在留管理庁
法務省政策評価懇談会での指摘
2020年の平均処理期間は一次で約25.4月、不服申立ては約26.8か月でした(「令和2年における難民認定者数等について」6頁)。
法務省の政策評価懇談会では、座長の篠塚力弁護士から
との意見が出されていました。
これに対する出入国在留管理庁の答えは、
というものでした。
それなのに、2021年は2020年と比較して、トータルで約1か月、一次だけだと約7か月も増えています。
2016年以来平均処理期間は標準処理期間を超えている
2010年から、難民認定審査の平均処理期間が公表されています。
難民認定審査の処理期間の公表について | 出入国在留管理庁 www.moj.go.jp
最後に平均処理期間が標準処理期間内に収まっていたのは、2015年第4四半期。その後は5年以上一度も6か月以内に収まっていません。2017年第4四半期からは日数で挙げています。標準処理期間6か月と比較しにくくする細工でしょうか。
このウェブページは2019年第1四半期以後は更新されておらず、年間の認定数のプレスリリース内でしか公表されていません。目につきにくいところに置いているのか、というのはうがち過ぎでしょうか。
普通ならクビでは?
通常決められている納期の5倍も掛けて納品したら、普通の会社ならどうなるのでしょうか。私たち弁護士も常に書面の締め切りに追われていますが、予定の5倍掛けて提出したら、裁判所は激怒、依頼者からもクビにされますね、間違いなく。
難民申請中の方々は、在留資格があるとしても「特定活動」という不安定なもの、在留資格未取得であれば仕事もできません。本来、このような不安定な地衣を解消するための制度として2005年に設けられたはずの「仮滞在許可」も、膨大な除外事由が定められていて、認められにくいものとなっています。先の「令和3年における難民認定者数等について」によれば、2021年中に判断をしたのが625人、そのうち認められたのが29人でこちらも約4パーセント程度の極めて狭き門となっているのです(ちなみに、2021年は14人増えて29人となっていました。2020年は440人中15人しか認められず、約3パーセントの許可率でした。)。
平均処理期間が長引けば長引くほど、申請者達の不安定な状況は続き、精神的にも経済的にも疲弊していってしまうのです。出入国在留管理庁には、この点についての問題意識が欠けているように思います。誰が責任を取るのでしょうか。
ウクライナからの方々も2年8か月待たせるのか
政府がウクライナからの方々を支援するために必要だと言っている「補完的保護対象者」の認定は、2021年に廃案になった入管法案によれば、一次段階は難民調査官が(法案61条の2の17)、不服申立て段階は難民審査参与員が担います(法案61条の2の12及び同13)。
つまり、「補完的保護対象者」の認定は、この5年以上一度も標準処理期間内に収まったことがなく、昨年に至っては5倍以上、2年8か月も時間がかかっている難民認定申請手続を担当しているのと同じ、難民調査官が担当するのです。不服申立段階も、20か月掛かっている難民審査参与員制度が担うのです。
どうしてウクライナからの方々の救済のためにこの「補完的保護対象者」制度が必要と言えるのか、私には不思議で仕方ないです。衆議院議員の本村伸子さんが出入国在留管理庁へのヒヤリングで、「補完的保護対象者」ができた場合に、現行法より何人くらい保護が増えるのか、試算をしたか確認したところ、しておらず、今後も予定はないと答えたとのことでした。
https://note.com/koichi_kodama/n/nb3dd3b1146e7
国の施策なのですから、新しい制度を作ってどの程度の効果があるかを予測し、それに応じて予算や人員配置を考えるのは当然です。それなのに「補完的保護対象者」がどの程度になるのか、今より人数が増えるのかどうかすら何も試算していないということがありうるのでしょうか。
やはり「火事場泥棒」だ
2021年2月に閣議決定された入管法案は、国内外からの大きな批判が集まり、廃案となりました。与党が圧倒的多数を占める国会情勢で、この結果は出入国在留管理庁にとって全くの想定外で、さぞ悔しい思いをされたのだと思います。
2021年12月に出入国在留管理庁は「現行入管法上の問題点」を公表し、難民申請者や「送還忌避者」に対するネガティブキャンペーンを展開しようとしました(これに対しては、稲葉剛さんが「入管庁はまだこんな使い古された手口を使うのか~「排除ありき」の政策押し通す印象操作 2022年は「モラル・パニック」の扇動に警戒を―人権がこれ以上侵害されぬように」で、実に適確な批判をされています。)。2022年の通常国会に、入管法案を再提出する気満々で、その下地づくりという意味があったのでしょう。
ところが、2022年1月に、政府与党が入管法案再提出を見送ると報道がされ、実際に見送られました。
https://www.asahi.com/articles/ASQ175SMSQ17UTFK00R.html
出入国在留管理庁は、悔しかったに違いありません。
そこに来て、ウクライナ危機が訪れました。
一度廃案に追い込まれ、昨年末に再提出に向けた準備をしたのに法案提出が見送られた出入国在留管理庁にとっては、好機が訪れたと考えたのでしょう。前に書かせて頂いたとおり、ウクライナの方々の保護を口実にして、2021年に廃案に追い込まれた入管法案を「火事場泥棒」的に通そうとしているとしか思えません。
https://webronza.asahi.com/national/articles/2022041000005.html
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