知ってる!環境のこと(第48話)
⁂データや内容は当時のものとなりますのでご理解ください。
こんにちは、みなさんいかがお過ごしでしょうか?今回のテーマは、『井堰(いぜき)』です。井堰とは、農業用水を確保するために川の水をせき止めて水位を上げ、田畑などに導水し易くしたたダムのようなものです。その歴史は古くは縄文時代にも遡り、福岡県の板付遺跡では、川底に木杭をまっすぐに打ち込んだ簡易の井堰が見つかっています。百万の水田があったといわれるラーンナーの地にもかなり昔からあったようですが、今、森の再生にこの『井堰』が注目を集めています。水の流れを堰き止めることで、森が再生できるのでしょうか?
井堰は、コンクリートなどを使うのではなく、竹や石などその土地にある自然の素材を使って建設されるのが特徴です。また、特に日本にしかないというものではなく、米作りを生業としてきた地域では、多少の違いはあれ、どこにでも見られたものです。タイの中でも東北タイでは、土で作られた堰が「タムノップ」、北部タイでは、水路(ムアング)と組み合わせて、「ムアングファーイ」、山の水源地に造られるメオ族のものは、「ファーイメオ」と呼ばれています。
ファーイメオで森を再生した村
チェンマイ県ドイサケット郡に、パーサッガーム(美しいチークの森)という村があります。その名の通り、立派なチークが林立する森と豊かな自然が広がる村です。しかし今から30年ほど前、それまでの過剰な森林伐採が祟り、乾季にも豊富な水量を誇っていた村の川が干上がってしまいました。全ての生命を育む水を失くした森は、衰退の一途を辿りました。森の恵みから生活の糧を得ていた村人たちは途方にくれました。ちょうどその頃、タイ各地で過剰な伐採により、豊かな森林が荒廃するという問題に直面していました。プミポン国王は、各地に足を運び、水源地にファーイメオを建設するよう説いて回りました。乾季には干上がり、唯でさえ水量の少ない川をせき止めろという鶴の一声に、当初村人たちは半信半疑だったといいます。しかし、それから5年が経ち、10年が経ち、川に水が戻ってくるのに合わせて、森が再生していく姿を見て、彼らの考えが一変しました。今ではパーサッガーム村は、森林再生プロジェクトのモデル地区になっており、多くの人々がそのノウハウを学ぼうと村を訪れるようになっています。
水の流れを遅らせる
水が全ての生命を育むことはいうまでもありませんが、その水の殆どは雨から齎されます。陸地への雨となる水の殆どが、植物の蒸散作用によって放出される水蒸気なのです。ファーイメオは、自然素材を使っており、水の流れを完全に遮断してしまうものではありません。どちらかといえば、「堰き止める」というよりはむしろ、「流れを遅らせる」ことが目的です。本来、急速な「上から下へ」でしかなかった水の動きを遅らせることにより、左右に幅を持たせるのです。こうすることで、水が広範囲に浸透し、ファーイ周辺の土地を潤し植物を育てます。それを求めて動物が集まってきます。生態系が自然と回復していくのです。人間が手を加えるのは、成長の早い木を植え、森の再生を速めてやることくらいなのです。
ファーイメオの波及効果とは
森を再生するという以外にも、様々なメリットがありますが、いくつかご紹介しましょう。
住民参加型の水資源管理へ
ファーイメオの建設材料は、地元で調達できる竹や木材、石、土砂などの自然素材です。環境に配慮したものであることはいうまでもありませんが、定期的なメンテナンスが必要です。もちろん、一人では出来ませんから、村の多くの人々がファーイメオの運営管理に携わることになります。自然と住民参加型の水資源管理へと導いてくれます。
表土流出防止
山の斜面はこう配が激しく、雨が降ると水と一緒に表面の土砂も流れてしまい、堆積した土砂で下流や平地の貯水池などの水深を低くしてしまいますが、堰を建設することにより、これを食い止めることが出来ます。また、水の流れを遅らせることで、大量の雨が降っても土石流になる危険を軽減してくれます。さらに、ファーイメオの内側に堆積した土砂には、豊富な栄養分が含まれており、肥料として使用することも出来ます。
山火事の防火帯
ファーイメオを源流付近から何層にも作ることにより、豊富な水を蓄えた線が斜面を走るようになります。乾季にはこの線が、山火事の拡大を食い止めることのできる防火帯の役割も果たしてくれます。
最近、地球温暖化の影響と思われる現象が世界各地で起こっています。温室効果ガスといわれている二酸化炭素、それを吸収してくれる森を育む雨を取り戻す取り組みは、少し時間はかかりますが、大切な取り組みといえるでしょう。
CHAOちゃ~お ちょっとディープな北タイ情報誌(毎月2回10・25日発行) 2008年5月25日第 123号掲載