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泉佐野ふるさと納税訴訟最高裁判決(その1)

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 去る6月30日,ふるさと納税制度の指定自治体から除外された泉佐野市が国を相手に提起した,不指定取消訴訟の最高裁判決が,第三小法廷から出されました。(判決文は→こちら) 

 今回はこれについてみてみたいと思います。
 長くなりそうですので,今回はまず,判旨に引用された上告理由及び上告受理申立てまでの経緯についてまず概観してみます。

1 前提事実-地方税法改正(平成31年法律第2号)と不指定決定

 ふるさと納税に関する特別控除の対象となる寄附金について,所定の基準に適合する地方自治体として総務相が指定するものに限る制度が導入された。泉佐野市はこの指定を申し出たが不指定の決定を受けたため,地方自治法251条の5第1項に基づき,不指定の取消しを求めて提訴した。

第二百五十一条の五 第二百五十条の十三第一項又は第二項の規定による審査の申出をした普通地方公共団体の長その他の執行機関は、次の各号のいずれかに該当するときは、高等裁判所に対し、当該審査の申出の相手方となつた国の行政庁(国の関与があつた後又は申請等が行われた後に当該行政庁の権限が他の行政庁に承継されたときは、当該他の行政庁)を被告として、訴えをもつて当該審査の申出に係る違法な国の関与の取消し又は当該審査の申出に係る国の不作為の違法の確認を求めることができる。ただし、違法な国の関与の取消しを求める訴えを提起する場合において、被告とすべき行政庁がないときは、当該訴えは、国を被告として提起しなければならない。

2 ふるさと納税制度の概要

 平成20年法律第21号による地方税法改正により,いわゆるふるさと納税制度が設けられ,地方自治体に対する寄附金のうち,一定額を超える部分の金額が,所得税及び個人住民税から控除されることとなった。
 ふるさと納税制度創設当時,寄附金支出者に対する返礼品に関し,特に法令上の規制はなかった。
 その後,返礼割合の高い返礼品の提供が生じたことから,総務大臣は,こうした返礼品を規制する通知(平成27年総税企第39号及び平成28年総税企37号)を発した。
 しかし,返礼品をめぐる競争はとどまらなかったため,総務大臣は,技術的助言としての通知(平成29年総税市第29号,平成30年総税市第37号)を発し,返礼割合を3割以下とし,返礼品を地場産品に限ることとすることを求めた。

3 平成31年地方税法改正

 平成31年2月8日に閣議決定された法律改正案に関し,総務省が内閣法制局に提出した説明資料には,
・特例控除の対象としない自治体を指定することは,過度な返礼品の送付を行う自治体に対するペナルティ制度を設計することになり,手続保障上問題がある
・ルールに従い寄附金募集を行う自治体を総務大臣が指定する方式を採用する
旨の記載がなされていた。
 国会審議においても,総務大臣等は,指定について,過去の募集実績を考慮するかとの質問に対し,改正後の規定に基づき,募集の適正な実施に係る基準に適合する自治体として認められるかどうかをできる限り客観的な情報をもとに判断した上で行う必要があるとして。他の制度も参考にしつつ検討する旨の答弁をした。

4 指定制度の概要

 特例控除対象寄附金については,以下の定めが置かれた(地方税法37条の2第2項)。

(寄附金税額控除)
第三十七条の二
2 前項の特例控除対象寄附金とは、同項第一号に掲げる寄附金であつて、都道府県等による第一号寄附金の募集の適正な実施に係る基準として総務大臣が定める基準(都道府県等が返礼品等(都道府県等が第一号寄附金の受領に伴い当該第一号寄附金を支出した者に対して提供する物品、役務その他これらに類するものとして総務大臣が定めるものをいう。以下この項において同じ。)を提供する場合には、当該基準及び次に掲げる基準)に適合する都道府県等として総務大臣が指定するものに対するものをいう
一 都道府県等が個別の第一号寄附金の受領に伴い提供する返礼品等の調達に要する費用の額として総務大臣が定めるところにより算定した額が、いずれも当該都道府県等が受領する当該第一号寄附金の額の百分の三十に相当する金額以下であること。
二 都道府県等が提供する返礼品等が当該都道府県等の区域内において生産された物品又は提供される役務その他これらに類するものであつて、総務大臣が定める基準に適合するものであること。

 したがって,特例控除対象寄附金を受ける自治体として指定される要件は次のとおりとなる。
総務大臣が定める基準(募集適正基準)に適合すること。
返礼品の調達に要する費用の額が,いずれも受領する寄附金額の30%に相当する金額以下であること。
③返礼品が当該地方自治体の区域内において生産された物又は提供される役務その他これらに類するものであること。

5 募集適正基準に係る告示(平成31年総務省告示第179号)

 以下のいずれにも該当することが必要とされた。
① 不当な方法による募集,返礼品等を強調した宣伝広告,適切な寄附先の選択を阻害するような表現を用いた情報提供等を行わないこと。
② 寄附金の募集に要した金額が,当該年度において受領した寄附金の合計額の5割以下であること。
③ 平成30年11月1日から申請書提出日までの間に,告示の趣旨に反する方法により他の自治体に影響を及ぼすような寄附金の募集を行い,他の自治体に比して著しく多額の寄附金を受領した自治体でないこと。

6 不指定の経緯

 泉佐野市は,平成31年4月5日に指定申出を行ったが,令和元年5月14日付で,国は不指定決定を行った。通知書には,次の理由が記載された。
不指定理由①
 泉佐野市が提出する申出書及び添付書類の内容が,地方税法37条の2第2項の基準に適合していることを証するとは認められない。
不指定理由②
 平成30年11月1日から申請書提出日までに,返礼割合3割超又は地場産品以外の編成品を提供して多額の寄附金を受領したことは,告示に反すること。
不指定理由③
 現に泉佐野市が実施している寄附金募集の取組みの状況に照らすと,地方税法37条の2第2項の基準に適合する団体とは認められないこと。

7 泉佐野市による不服申立て

 泉佐野市は,国地方係争処理委員会に対し,審査申出を行った。
 委員会は,上記理由①及び②は不指定の根拠とならず,理由③についてはなお検討を要するとし,再度の検討を行うよう国に勧告した。
 これを受けて,国は,理由①は独立した理由として扱わないこととするが,同②・③については判断を維持するとして,不指定の判断を維持する通知を行った。
 このため,泉佐野市は大阪高等裁判所に提訴(地方自治法251条の5第1項,第3項)したが,請求棄却の判断であったため,上告受理申立てを行った。(原審判決→こちら


8 大阪高裁(原審)の判断

 では,原審はなぜ泉佐野市の請求を棄却する(不指定決定の取り消しを認めない)判断をしたのでしょうか。
 原審では多数の論点が争われていますが,最高裁でも問題となった,総務大臣の裁量と地方自治法247条第3項(助言等に関する不利益取扱いの禁止)の問題についてみてみましょう。

9 総務大臣の裁量についての大阪高裁の判断

 大阪高裁は,ふるさと納税制度について,その趣旨を次のように理解しています。

民間による自発的公益活動促進やこれへの寄附金税制等の改革と併せて,個人住民税の地方団体に対する寄附金税制の拡充の中で,納税者側の自発的意思で納税先を選択して地方団体を応援できれば納税意識の涵養や地方自治の充実に資するとの考え方に立脚し,希望する団体に対し寄附をする形で住民税を納付する仕組みとして構想され,地方団体側には,寄附を受け得る施策や特色ある事業に積極的に取り組む工夫をし,その旨の情報発信もするなどにより地方の活性化につなげていくとの努力を期する

 ところが,このような趣旨で発足した制度の下で起きた実際の事態は,地方自治体の特色ある施策や事業への寄附という趣旨に沿うものではなく,「返礼品競争」であり,次々と返礼品競争に参入する自治体が増えた結果,ふるさと納税制度によって得られる寄附金が,返礼品の費用に充当されるという悪循環を招くようになったと認定されています。

 そして,今回の指定制度は,こうした弊害に対応した複数回の通知にもかかわらず是正されなかったことから,状況の悪化を抑止し,制度存廃の危機に瀕するふるさと納税制度を本来あるべき正常な運営に復するために導入された制度であるから,その目的を達するために,総務大臣は裁量権を行使することができるとされました。
 また,ここにいう正常な運営とは,地方自治体が,寄附という法的枠組みに従い,その取り組む事業や特色ある施策によって寄附先として選定されるよう募集を行うことをいうとされています。

 これを前提に,地方税法37条の2第2項の総務大臣に対する委任の趣旨は,特例控除対象となる寄附金の寄附先を,ふるさと納税制度の趣旨に沿う募集を行う自治体に限定することであって,そのためには前記諸弊害の除去が必要であり,このような問題を改善・解消した自治体のみによってふるさと納税制度を運用できるようにすることが,改正法の指定制度の趣旨であると判断されました。

 その上で,地方自治体が取り組む事業や施策に寄附が向けられるようにするためには,社会経済的な条件整備や政策的考慮を行うことが不可欠であり,総務大臣は広い裁量の下に,必要かつ適切な条件設定を行うことができるとし,ふるさと得納税制度の趣旨に反する募集を継続して寄附金を多く受領した自治体を参入させないことが可能な選別基準を設けることも,法の委任の趣旨に含まれている(逸脱や濫用はない)との判断を示しました。

10 地方自治法247条3項についての大阪高裁の判断

 こちらは少しテクニカルな論法を採用しています。

 まず,大阪高裁は,そもそもふるさと納税制度に関し,泉佐野市は,制度が前提とする寄附という法的枠組みの範囲内でのみ,裁量をもって自治に関する事業事務を遂行すべきであったのであり,その枠組みから逸脱した行為について任意に判断を行う余地は与えられていないと断じます。

 そして,法改正前の技術的助言は,上記の逸脱について指摘したものであり,法改正は,その旨を改めて明確な基準をもって法定化したものであって,法定化後に効力を発する要件を定めたものとして関与法定主義には反しないとします。

 ここは少しわかりにくいところです。
 おそらく大阪高裁のいわんとするところは,泉佐野市のふるさと納税の運営は,もともと法の枠組みから逸脱した許されないものであり,技術的助言はこれを指摘したに過ぎないというのが1つ。そして,改正地方税法は,その逸脱について改めて明確な基準を定めたものであって,その改正法に則って不指定決定を行うことは法定の根拠によるものであるということがもう1つでしょう。

 大阪高裁の判断の大前提は,法改正前においても泉佐野市の行為は法の予定する枠組みからはみ出したもので,技術的助言によってそうなったわけでも,法改正によってそうなったわけでもないということなのでしょう。

 このあたりは,次回紹介する最高裁と判断の前提を異にしています。
 
 今回の最高裁判決は,上記原審の判断を否定し,不指定決定は裁量権の逸脱であること,また,地方自治法にも反することを認定しました。

 その詳細については次回に続きます。


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