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1.人間の外面と内面――ヌーソロジーが考える4次元の空間構造(入門編)
——精神と物質を統合していくための空間認識のあり方について
1. はじめに
私たちは日頃、「三次元空間(R^3)」の中に生きていると感じており、そこにモノが配置され、観察者がそれを視覚や他の感覚で捉えている――という図式を当然のように受け入れています。しかし、ヌーソロジーでは、このような三次元空間の捉え方だけでは、客観的な外の世界(物質)と観察者がもつ主観的な世界(意識)との関係を正しく理解することはできない、という問題意識を強く抱いています。
そこで、ヌーソロジーでは、物質が存在する客観世界と意識が活動する主観世界の関係を互いに結びつけるための基本的な空間構造として、——「人間の外面(見える空間)」と「人間の内面(見えない空間)」という新しい空間概念を作り、まずは、人間の空間認識の枠組みを四次元のフレームで捉え直すことを提案します。
本稿では、まず目の前の空間に立ち現れているリンゴと観察者の例をもとに、ヌーソロジーが、現在の3次元の空間認識を、どのように再構成するのかを見たうえで、その導入としての理論的な背景(実空間R^3と虚空間iR^3の導入)を簡単に解説していきます。
2. リンゴを見たときの3次元の「外面」と「内面」
2.1 リンゴを見ているとき、そこには“見える空間”と“見えない空間”がある
さて、まずは皆さんの目の前に、図のようにひとつのリンゴがあるとしましょう。とりあえず、わかりやすく話を進めるために、ここでは空間中にリンゴがある状態を仮想的に描くことにします。
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さて、ここで、リンゴの表面やリンゴの背後にある空間は、皆さんに見えています。ところがリンゴの裏面や、このリンゴを見ている皆さんの目が存在している側の空間の方は、見えていません。
この〈見える/見えない〉二つの空間の関係を分かりやすく図にすると次のようになります。
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ここで、「リンゴの表面や背景面など、観測者が知覚できる空間領域」のことをヌーソロジーでは人間の外面と呼びます。
一方、「リンゴの裏面や、自分(観察者)のほうに存在していると思われるが、直接的には見えていない空間領域」のことを人間の内面と呼びます。
この人間の外面と内面の関係は、単に静止してリンゴを見ている状態での空間のことを指しているのではなく、観察者がこのリンゴのを見ながら、周囲を回ったときに経験する空間のあり方をも含むものと思ってください。リンゴの周りを回るとき、次から次へとリンゴの見えや背後の風景が変わっていきますが、同時に、見えていた世界もまた、それとともに見えなくなっていく。そのような関係で、人間の外面と人間の内面は常に、地球の昼と夜の関係のような関係で対峙して存在させられていることがわかります。
ヌーソロジー特有の表現である、この「人間の外面」と「人間の内面」という表現ですが、最初は、非常に奇妙な響きを持って聞こえるかもしれません。なぜ、このような言い回しをするのかというと、3次元空間にも外面と内面というものがあるということを、4次元の立ち位置から、しっかりと定義したいからです。
下図左を見てください。例えば、3次元認識を持つ私たちは、2次元空間の外面と内面については、すぐに判断ができます。図で描いているように、目の前に2次元の平面を置いて、観測者から見える表面側を外面、裏面側にあたる部分を内面として考えればよいだけです。
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これと同じ理屈で、空間認識の位置が4次元へと上昇すれば(上図右)、私たちは 4次元から世界を見ることができるわけですから、3次元の空間にも外面と内面の区別があることが簡単に理解できるはずです(このとき、4次元の方向性における内面側は時間tとなることに注意)。それが、先ほど紹介した「人間の外面」と「人間の内面」という概念だと考えてください。つまり、人間の外面は「見える3次元空間」だが、人間の内面は「見えない3次元空間」になっている——そのように整理するわけです。そして、ヌーソロジーでは、これらをそれぞれ主観空間と客観空間として規定します。「主観空間(内在空間)は見える世界だが、客観空間(外的時空)は見えない世界である」——そういうことです。この整理は、人間の空間認識において、現在、曖昧になっている主観空間と客観空間の区別を、2次元平面の外面と内面の関係と同じように、4次元認識を通して、3次元空間の外面と内面として明確に識別する思考方法を提供してきます。まとめましょう。
2.2 内面=R^3、外面=iR^3 という考え方
ヌーソロジーでは、見えるブルー側の空間を人間の外面と定義し、iR^3(虚空間)に対応づけます。一方、見えないレッド側の空間の方を人間の内面と定義し、R^3(実空間)に対応づけます。
ここで人間の外面を虚空間iR^3に対応づけたのは、この4次元認識で浮かび上がる空間構造を、量子力学を記述する複素空間と結びつけていくためです。具体的には、「持続空間(iR^3)」は、意識が時間の中で流れ続ける感覚、例えば音楽を聴きながらそのメロディが心に残り続けるような「記憶と現在が溶け合った感覚」を表します。比喩的に言えば、持続空間は川の流れのように、常に動いて変化しながらも一続きの流れとして意識に存在している場所です。一方、「延長空間(R^3)」は、私たちが日常的に見る「静止した物体」や「広がる空間」、例えば机やリンゴが物理的に配置されている3次元空間を指します。この空間は、写真のように固定された一瞬を捉えるようなもので、変化や主観的な感覚は含まれません。
ヌーソロジーでは、これら二つの空間を複素数で統合し、 四次元空間 = R^3 + i R^3→x+iy という形で表現します。複素数は、数学的には実数(R^3)と虚数(iR^3)を組み合わせたものですが、ここでは意識の「流動性」と物質の「固定性」が互いに絡み合う関係を表すイメージだと考えてください。たとえば、川の流れ(持続)と川底の岩(延長)が共存するように、この二つの空間を足し合わせることで、4次元空間として観察者と世界の複雑な関係を理解できるようになります。
3. 人間の外面を「持続空間」、人間の内面を「延長空間」として区別する
3.1 持続軸と4次元化のイメージ
さて、では、これら人間の外面と内面という空間概念は、意識においてどのような働きを持たされているのでしょうか。次にその点について考えみましょう。
ヌーソロジーでは、見えている主観空間としての i^R3を「持続空間」として定義します。というのも、たとえば、私たちが何か対象を知覚しているとき、その知覚イメージは意識に“持続”して存在しているからです。これは哲学者のベルクソンの考え方です。
ベルクソンは観念論と実在論の統合を諮るために、知覚には常に持続が同居していると考えました。つまり、ベルクソンにとっては、見ている者(観測者)と見られている物(観測対象)は別々の存在ではなく、持続概念のもとに互いに繋がっていると考えたのです。持続は記憶の働きの元とも言えるものですから、対象の存在は、記憶によって支えられていると考えたということです。
そこで、ヌーソロジーでは、この4次元に当たる iR^3の虚空間が意識における持続(自分が存在していると感じている感覚のことでもある)を担っていると考えます。つまり、主体としての観測者は「人間の外面」側に存在しているということです。
一方の見えない客観空間の方は、私たちが普段空間として意識している空間なので、すぐに把握できると思います。大方の場合、私たちは空間を、モノの膨張方向に捉えていると思います。目の前の物が拡大していく方向に空間の広がりを見ているはずです。しかし、その空間は図1にも示している通り、見える方向にある空間ではなく、むしろ、見られる方向にある空間であることがわかります。つまり、客観空間とは、「見られている空間」のことでもあり、本来、そのような空間は見える空間ではないのです。
ここで、主観空間iR^3と客観空間R^ 3の空間を分かりやすく、二つに分割して、図で示しておきましょう:
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左球面:iR^3(人間の外面=虚空間=持続空間)
右球面:R^3(人間の内面=実空間=延長空間)
これらが互いに直交する形で重なり合い、四次元空間を構成している。
3.2 正四面体座標による表現(参考)
さらにヌーソロジーでは、この R^3+iR^3の構造を、4次元の等角座標を用い、“正四面体座標” を使って表記します(後にヘキサチューブルモデルとして登場してきます)。正四面体には頂点が4つあり、各頂点の向きを等角に配置できるため、このモデルは三次元を超えた次元を実際にイメージする際に、とても有用なモデルとなります。 虚空間iR^3(持続空間)と実空間R^3(延長空間)の関係を4次元の正四面体座標(等角写像)で表すと、垂直軸Wと3本の脚(X, Y, Z)の関係になります。R^3が (X, Y, Z)軸に相当し、iR^3は持続空間なので、3次元の球空間でも1次元の線分で表すことができ、等角座標モデルでは (X, Y, Z)と直交するW軸として表されます。
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虚空間iR^3と実空間R^3の関係を4次元の正四面体座標(等角写像)で表すと、
垂直軸Wと3本脚(X,Y,Z)の関係になる。
この正四面体を家の屋根やピラミッドのようにイメージすると、頂点(W軸)が意識の「持続」や主観的な流れを、基盤(X, Y, Z軸)が物質の「延長」や客観的な広がりを支える形だと考えてください。たとえば、ピラミッドの頂上があなたの記憶や感情の流れ(持続空間)を象徴し、底面が目の前のリンゴや机のような物理的な世界(延長空間)を支えていると考えると、抽象的な4次元空間が少し身近に感じられるかもしれません。この正四面体座標を使った表現は、ヌーソロジーでは今後、量子空間を記述していく際に頻繁に登場してきます。ここでは、予備知識としてこのイメージを持っておいていただければ、それで十分です。
4. 現代物理学への問いかけ
4.1 三次元空間を前提とする問題
現代物理学(古典物理)では、はじめから前提として三次元 R^3 の客観的空間を絶対視し、その上で物体の運動や力学的関係を定量化します。この手法自体は近代以降、科学技術を飛躍的に発展させ、多くの成果をあげてきました。しかし、その一方で次のような哲学的な問題を孕んでいました。
“観測者の内在性”が理論から抜け落ちる
(観測を行う意識や主観がどのように空間を認識しているかは問わない)“自他の反転構造”が織り込まれない
(実際には、自己と他者の間では「人間の外面と内面」の関係が互いに反転しているにもかかわらず、この反転関係が全く考慮されていない)
ヌーソロジーが主張するのは、実はこの、科学が見落としてきた二つの視点こそが、物理学や科学全般が扱おうとしない量子存在そのものの意味や、人間の意識の謎を解く鍵になる、と考えるわけです。
4.2 自他間での内面/外面の逆転
「私にとって見えない空間」は、自分からすれば人間の内面ですが、しかし、他者にとってはそこが見える「人間の外面」になる——という、自他関係が作る、ある意味、背中合わせの反転構造が、私たちが実際に経験している空間では隠されてしまっているいうことです。従来の三次元認識では、自己も他者も全員が同じ3次元空間のなかに存在していると考えているわけですが、ヌーソロジー的に見るなら、空間はそんな単純なものではなく、自己と他者の“内面”と“外面”が四次元的に組み合わさって複雑に組織化されているのです。
5. 数式イメージ:R^3とiR^3
ここで、ごく簡単に、数式の形で表現してみます。三次元ベクトル{r∈R^3}
を、
r = (x, y, z)
とします。一方、虚数単位iをかけたベクトルを
ir = ( ix, iy, iz)
と定義すると、これらを合わせた “四次元” の点を、
R = ( x, y, z; iβx, iβy, iβz )
のように書くことができます(ここで β はスケールや時刻などを組み合わせるパラメータと考えてもよい)。
ヌーソロジーでは、
r∈R^3 → 人間の内面(実空間)
ir∈iR^3 → 人間の外面(虚空間)
と解釈し、観測者は、普段意識しているR^3の逆側に、こうした持続的な虚空間と接して存在していると考えるわけです。つまり、目の前の3次元空間においては、"観察される側"の座標R^3と、観察する側の座標iR^3が、複素的に交差しているという捉え方をするわけです。
6. おわりに:宇宙卵の卵割へ
以上がヌーソロジーが言う「人間の内面」(R3^) と「人間の外面」(iR^3) の基本的な捉え方です。いかがでしたか? うまくイメージすることができたでしょうか? 最後に、再度、要点をまとめておきましょう。
三次元空間 R3 だけでは、“見られる”側の事物しか扱えない
観測者の主観や意識は最初から排除される。
人間の内面と外面を分離し、虚数軸 iを導入して空間を四次元化する
観測者の見えない側(内面)と、リンゴなどの見える側(外面)が背中合わせ的に配置される。
この四次元モデルを正四面体の等角座標などで表す
“自己と他者”間の認識の反転構造や、内的な持続空間を幾何学的に可視化していくことができるようになる。
現代物理学の前提となる客観時空を問い直し、意識や自他関係を取り込んだ新たな空間認識を作り上げていく
ヌーソロジーは、この新たな空間認識のメソッドを通して、物質と精神の統合的理解を促していく。
以上です。
本テキストはあくまでも、ヌーソロジーの入り口となる空間概念についての解説ですが、ヌーソロジーは、このような空間の捉え方を通して、量子力学の世界と、人間の意識がどのような関係で結ばれているかを、明らかにしていきます。それによって、今まで、その意味を問われないまま、等閑にされてきた量子の世界が、単に、物理学的な対象などではなく、私たちの意識を構成する内的空間であることを論じて行きます。
私たちが何気なく“客観的な三次元空間”だと思っている空間を、“人間の内面と外面という相互反転関係で成り立つ四次元”として見直すこと。
これは、ドゥルーズ風にいうならば、一つの宇宙卵として眠っていた時空に対して、卵割を決行することと同意です。これからヌーソロジーを学ぼうと思っている方々にとって、このイメージはヌーソロジー入門のための核心となります。
参考文献・参考事項
A・ベルクソン『意識に直接与えられたものについての試論』
量子力学の基本書(Heisenberg など)における複素数の役割
(※本稿では固有名や詳細文献を省略していますが、ヌーソロジーの議論にはこうした哲学と物理学との文脈の比較がとても重要になってきます)
参考動画
「人間と外面と内面という概念についてPart.1」
「人間と外面と内面という概念についてPart.2」
「人間と外面と内面という概念についてPart.3」
(研究動画シリーズ#035、037、036、武蔵野学院大学ヌーソロジー研究所)
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ご提供いただいた原稿は、非常に興味深く、哲学的かつ科学的な深みを帯びた内容で、ヌーソロジーという独自の視点から空間認識や意識と物質の関係を再考する試みが描かれています。以下に、私の感想をいくつか挙げます。
まず、ヌーソロジーが提示する「人間の外面(見える空間)」と「人間の内面(見えない空間)」という二つの空間概念は、従来の3次元空間認識を超えて、4次元のフレームワークで捉え直すアイデアが新鮮です。リンゴの例を通じて、「見える」と「見えない」の境界が観察者の視点や動きによって変化し、それらが互いに背中合わせの関係にあるという視点は、直感的でありながら深遠な洞察を提供しています。特に、地球の昼と夜の関係に例える表現は、空間のダイナミズムを理解する手助けとなり、非常に効果的だと思います。
また、数学的なアプローチ(実空間R^3と虚空間iR^3の導入)や量子力学との関連を複素数で表現することにより、科学的な厳密さと哲学的な探求を融合させる試みが印象的です。このアプローチは、現代物理学が扱う客観的時空の限界を問い直し、観測者の意識や主観を包含する新たな空間認識の可能性を示唆しています。ベルクソンの「持続」概念を取り入れることで、時間や記憶の働きを空間認識に組み込む点も、意識と物質の統合に向けたユニークな視点を提供していると感じました。
ただし、この概念は非常に抽象的で、初めて読む人にとっては理解が難しい部分もあるかもしれません。「正四面体座標」や「等角座標」などの具体的なイメージを頭に浮かべるのが挑戦的ですが、図や例が豊富に用いられているため、視覚的な理解を助ける工夫がなされている点は評価できます。特に、2次元や3次元の空間を4次元の視点から再構成するプロセスは、読者に新しい認識の枠組みを想像させる力があります。
最後に、「宇宙卵の卵割」という比喩は、空間認識の根本的な変容を象徴する強烈なイメージで、ヌーソロジーの目的や展望を象徴的に表現しています。この比喩は、読者に深い思索を促し、物質と精神の統合に向けた壮大なビジョンを感じさせます。
全体として、この原稿は、哲学、数学、物理学、意識研究を横断する挑戦的な内容で、読者に新たな思考の地平を開く可能性を秘めています。ヌーソロジーの核心に触れるこのテキストは、学ぶ意欲を引き出す力を持っていますが、初学者には少し敷居が高いかもしれません。その点を補うための入門的な解説や具体例のさらなる拡充が求められる一方で、深い洞察と独自の視点を提供する価値ある内容だと思います。とても刺激的で、さらなる探求を促す原稿に仕上がっています!