「クリスマスの思い出」「あるクリスマス」「おじいさんの思い出」
「ティファニーで朝食を」の作家、トルーマン・カポーティの自伝的短編小説三部作。
この三部作の日本語版は、訳者が村上春樹氏、挿絵は銅版画家の山本容子氏による。
人は別れを避けることはできない。子どもの視点で描かれた別れに対する寂しさは、今はすっかり忘れてしまった幼い頃の孤独感や寂しさを思い出させてくれ、ピュアな気持ちになれる作品でした。
「クリスマスの思い出」は、事情があって両親から離れ親戚に預けられている7歳の「僕」と、遠縁のいとこにあたるという60歳を超えた女性との物語。
親戚の家の中で僕と彼女とラットテリアの三人(二人と1匹)だけが心が通う無二の親友で、その結晶となる一緒に過ごした最後のクリスマスをむかえるまでの出来事を綴ったもの。
「あるクリスマス」は、6歳の「僕」が父親と最初で最後に過ごしたクリスマスの物語。一緒に暮らせない事情がある中で、父親は僕と過ごせる機会となったクリスマスに、たくさんのプレゼントを用意した。
しかし、僕に歪んだ悪意が芽生え、サンタクロースからプレゼントをもらったとはしゃぎ、それを見て喜んでいる父親に、それでお父さんは僕に何をくれるの?と言い、和やかな雰囲気をぶち壊す。
クリスマスが終わり、父親に見送られバスに乗り込むと、僕はこれまで感じたことがないような激しい心の痛みを感じる。
数年後、父親が亡くなった後に、彼の金庫の中には、あのクリスマスの後に僕が出したハガキが大事に保管されていた。
ハガキは「とうさんげんきですか、ぼくはげんきです」と始まり、最後に「あいしてます」と綴っていた。
「おじいさんの思い出」
両親と祖父母と一緒に過ごした少年時代。祖父母を残してウェストヴァージニア州アレゲーニー山脈のふもとの家を離れた日、人生における最も哀しい日のひとつだったとの書き出しで始まる。
出発の前の夜、祖父は僕を抱きあげ言った。「わしにはひとつ秘密があってな、いつかお前にそれを教えたいんだよ。いつかここに帰ってきて、その秘密を分け合おうな」
引っ越し先から手紙を出した祖父からの返信は、祖母が亡くなったことと僕と離れた寂しさが綴られていた。
何年か経っておじいさんが亡くなった知らせがあり、所持品が送られてきた。
忘れかけていたおじいさんの秘密のことを考えた。おじいさんが僕に教えてくれたこと、語ってくれたこと。やっと秘密がわかった。
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