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あなたは書く仕事を続けなさい─振り返って見つけた未来への原点

僕はこれまで2回の転職を経験しています。1回目で広報職に転職し、2回目で今の会社に移って広報を担当しています。

新卒で入った会社は、制作会社です。主に広報紙をつくるライター・編集として仕事をしていました。
確か、志望理由は「自分が好きな“書く”ことを仕事にして、世の中の知られざる魅力を伝えたい」と話していました。

ですが、入社当初は営業を担当していました。“お客さんを知る、きちんと話を聞ける人材になるため”という趣旨で、ライター志望の新人が経験する登竜門だったんです。ライターになりたかった僕は必死に営業を頑張りました。本当に運良く結果がちょっとだけ出始めたころ、転機が訪れました。

そのときの社内で、文章の書き方からマインドまで、ライターを育てるためにきちんとした研修をしてみようということになりました。僕を含む数名が候補にあがり、作文で選考されました。
作文のテーマは「自分の職場を紹介してください」だったような。必死すぎてどんなことを書いたかは覚えていないのですが、後にもらったフィードバックは覚えています
「文章はめちゃくちゃだったけど、ライターになりたいという熱意が何だか伝わった」
博打のような選定ですけど、何にせよありがたいことで、ライターとして一歩を踏み出せました。

僕の師匠になったのは、会社の第一線でずっとライターとして仕事をしてきた方でした。そのときはライターとしてはちょっと引いたポジションにいたこともあって、若手の育成担当に任命されたそうでした。

初日は、ライターとはどんな仕事かについてのレクチャーから始まりました。憧れの仕事のスタートラインに立った身としてはやる気満々。日報にも元気なコメントを残していました。ビジネス書、雑誌、小説等、たくさんの文章に触れて、文章の書き方の本も読んで書き方も学びました。

とはいえ実践がすぐに伴うかというと、そんな容易いわけはなく…。師匠の計らいで色々な先輩に同行させてもらって、原稿を書かせてもらったのですが、実際に使えるものにはならない。
平たく言えば、ポンコツでした。

今でも当時、同行させてもらった先輩に会うと笑い話として言われます。「上がってきた原稿読んでびっくりしたよ。全然、取材で聞いた思いが伝わってこないんだもん。ロボットが書いたのかと思った」

このとき、書いた当の本人は、書き直しに書き直して、もはや正解が分からなくなっていました。期限もあるので、とりあえず先輩に出した結果があの一言。今考えれば、ごもっともです…。

日々、同行させてもらってはショックを受ける僕に、師匠は苦笑いを浮かべながら「まぁ最初はそんなもんだ」とあっさり。
当の本人はというと「いやいや、このままじゃ自分は一生使い物にならないんじゃないか!?」という不安と絶望。そんなモヤモヤを抱えながら書く人の原稿が、使われることはほとんどありませんでした。

ところが、研修の日は突然終わりを告げます。ある部署で欠員が出ることになり、僕が補充されることになったんです。
まだ使い物にならなそうな雰囲気を漂わせながら。そんな中、師匠は「本格デビューまでもう少しだな」と相変わらずあっさり、かつ前向き。一方で当人は誰より不安を感じていました。

異動が間近に迫ったあるとき、師匠と二人で外出する仕事がありました。仕事を終えた帰り道、「ちょっと寄って行くか?」と誘いを受けました。意外にもこの手のお誘いは初めてで、僕も「ぜひ」とそのまま飲みに行きました。

2時間程度だったでしょうか。色々と話した記憶はあります。どんな文脈だったかは覚えていないのですが、僕は師匠に言われた何気ない一言だけが強烈に残っています。

書く仕事を続けなさい。いつか職種が変わるかもしれない。会社が変わるかもしれない。でも、ライターとしてキャリアを始めたんだから、書くことをコアスキルにしていってほしい

飲みの席でしたし、師匠はたぶん覚えていない気がします。なんでそんな言葉を自分が覚えているんだろうか。今思うと、自分に自信が持てない中でも、心のどこかで“そうありたい”と願っていたからかもしれません。

その後、ライターとして独り立ちして、決してスーパールーキーではありませんでしたが、お客さんにも恵まれて何とか仕事ができるようになっていきました。
数年間、ライター・編集をして、広報という仕事に転職しましたが、なんだかんだ書く仕事を求めている自分がいます。取材原稿だけがすべてではなく、広報は企画して、書く仕事ばかり。書くことからは離れたくないし、離れようとしていません。結局はどこでも書いているんです。

書くこと以外に変わっていないことがもう一つあります。

誰かの仕事を伝えるのが生業だということです。

僕は、仕事で自分自身を語ることはありません。ライターも広報も一緒。
ずっと他己紹介をしています。
自分が出会い、知った人や仕事の魅力を伝えています。新卒のときの志望動機である「世の中の知られざる魅力を伝えたい」と照らし合わせてみると、まさに初志貫徹です。


この約1カ月、「言葉の企画」にきっかけをもらい、僕は改めて自分がどうなりたいかを考えました。色々考えた結果、僕は師匠のあの何気ない一言にルーツがある気がしています。正直、自分の未来を考えたときに、この過去にヒントがあるとは思いもしませんでした。

今言える確かなことは、今も自分は書く仕事を続けていること。書くことが好きであること。

ロボットのような無感情ライターからは少し脱却できた…はずです。

まだ未熟なところはあるものの、もっと伝えられるようになりたい。書き手、伝え手として、だれかのために、歩んでいきたいと思っています。

未来がどうなるかは分かりません。それでも思うことを言葉にすることで、覚悟をもって進めることがあるかもしれません。

ちょっと恥ずかしいのも確かですが、僕は過去に自分が聞き、話してきた先に今があることに気付きました。

だから、今の思いもここに書き残しておきます。


僕たちの当たり前は たくさんの仕事に支えられている
挙げていけばキリがないけど 僕は 仕事の物語を届けていきたい
知らないことを知るって楽しい
わかると伝えたい そう思う性分らしい

伝えることで物語の主役が喜んでくれたり
読者に面白いと思ってもらえるときもある
広報やライターの仕事を続けているのは
この伝える喜びが好きだから
自分の手を伸ばして広げて 精一杯届く限り

“当たり前”を支える
仕事の物語を届ける


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