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「内なる生きづらさ」を解き放つ…やまゆり園事件から8年


「障がいのある人には、
『人を幸せにする力』があるんだよね」


これは、第2コムハウスを応援しようと
地元農家の方々が立ち上げて下さった
「ファーマーズコム新村」代表の農家の方が、
アルプス福祉会の職員研修会の場で
話された言葉です。

第2コムハウスでは、
2013年度より「ファーマーズコム新村」と
連携して農産物直売所を開設、運営しています。

また、これまで施設の敷地の隣にある
農家さんの畑をお借りして、
食用ほおずきを栽培したり、
新たな自主商品開発にとりくんできました。

何かがこころをとらえたのでしょう。

利用者のなかまたちと一緒に
農作業に汗を流してこられた
この農家さんの言葉には、
実感のこもったあたたかい響きがありました。

一方で、障がい福祉援助に携わる者が
決して忘れてはならない、
「やまゆり園事件」の加害者の言葉を思い起こします。

優生思想と人権思想

この事件は、2016年7月26日未明、
神奈川県相模原市の障がい者支援施設
「津久井やまゆり園」において
入所者19名が刺殺され、
入所者・職員26名が重軽傷を負った、
極めて凄惨なものでした。


「障害者は不幸をつくることしかできません」


この言葉は、
加害者であるやまゆり園の元職員が、
2016年2月、衆議院議長にあてた手紙の一節です。

「人を幸せにする力がある」  

「不幸しかつくらない」

どちらも同時代に生きる人間の言葉です。
この言葉のちがいはどこからくるのでしょうか。また、何がちがうのでしょうか。


優生思想
人間の尊厳に条件をつけ、
「生きるに値するいのち」と
「生きるに値しないいのち」に、
「いのちを選別」するものさし

人権思想
人間の尊厳は無条件であり、
だれもが「生きることそのものが尊い」
とするものさし


歴史を大きくとらえれば、
権利保障運動によって「人権思想」は
日本でも世界でも法律・制度として形になり、
人々の意識に根づいてきたことが、
人類の進歩なのだと思います。

また、障がいのある人が働き、くらすことは
「人としてあたりまえの権利」
であることが、国内外で社会の共通認識へと
確実に変化してきました。

「わたしたちのことを、
わたしたち抜きに決めないで」
という精神に貫かれた障害者権利条約
(2006年国連で制定、日本は2014年批准)は、その象徴です。

内なる「生きづらさ」


一方で、
「できる」「できない」で
自分と他者を比べ、能力の優劣を序列化して、
その序列が人間の存在自体の優劣へと
すり替わってしまう
「まなざし(目線)、ものさし(価値)」を、
現代に生きるわたしたちは
内面に刻み込んでいるのではないでしょうか。

だれもがおとなになるにつれて、
〇〇ができたら入学・入社を認められる
「能力の序列化と選別」から
逃れることができず、
「条件付き承認」という
ハードル競争を余儀なくされているからです。

労働能力、体力、知力、精神力、
容姿、性、学歴、職歴、人種、民族、国籍…。

あらゆるものを比較し、「優劣」をつけ、
その「序列」で人の「存在価値」をはかる。

そして「優れているもの」に従い、
「劣っているもの」を排除・攻撃する。

「かけがえのないわたし」を求めるがゆえに、
能力の序列化による優劣競争に、
他者も自らも駆り立てる。

一人ひとりの内面においても、
現実生活においても、
現代に生きるわたしたちは
この競争に追われる不安感、恐怖感といつも背中合わせで懸命に生きているように感じます。

これは
一人ひとりに優生思想が内面化し、呪縛する

「内なる生きづらさ」

であると思います。

人権思想と優生思想がこの社会の隅々で、
すなわち個々人の内面で、
入り混じり、せめぎ合っている。

わたしたちは、この激しい
「せめぎ合い」のなかを生きている。
やまゆり園事件の加害者も、そのひとりだと思います。

人間的なちからへの気づき

しかし、
能力の優劣で人を序列化する
「まなざし(目線)、ものさし(価値)」は
結局、だれも幸せにしません。

人が生きることの価値が無条件に尊ばれ、
だれもがともに幸せになれる
人間的で安心感に満ちた
「まなざし、ものさし」のなかでこそ、
人はイキイキ生きることができるからです。


このことは、
アルプス福祉会の歩みが示しています。

ここに、地域の方々とわたしたちが
つながっていける基盤と可能性があると
感じるのです。

やまゆり園事件の加害者は、
重度の障がいのある方を「心失者」と呼び、
不幸しかつくらないと主張し続けました。

しかし、「心失者」と呼ばれた人が持つ
人間的なちからへの気づきが、
障がい福祉援助職の最大の魅力にほかならず、
支援者はこのちからに支えられています。

そして障がい福祉援助職は、
だれもが安心して生きることができる
新たな「まなざし、ものさし」を社会に示して、ご本人も、支援者も、地域の方も抱えている
「内なる生きづらさ」を
ともに解き放つ仕事です。

この仕事の意味が、今、
ますます大きくなっていると思います。

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