見出し画像

家型とイエ型の家


 この建築は家型・イエ型という身近で根源的な形の持つある種のアイコン性に大きな可能性を抱き設計した自邸です。

 敷地は緑豊かな農村集落にある設計者が生まれ育った家の一角になります。両親と祖父母世帯がそれぞれの家で各々の暮らしをしている中に、子育て世帯の3人家族が敷地内同居という形で移り住むにあたり、新たな家族一員として徐々に溶け込みながら共助し合える住まい方を目指した平屋の住宅です。

 各世帯ごとに異なる生活リズムを尊重しプライバシーに配慮しつつ、内部からも豊かな自然環境を享受できるように建物の配置や開口部のふるまいを丁寧に計画しました。既存建物には裏庭に面してそれぞれのダイニングと濡れ縁がありましたので、これをデザインコードと捉えこの家にも同じく濡れ縁とそこに繋がるダイニングと縁側空間を設けました。ここを世帯間の交流の場になるよう計画し、今ではスープの冷めない距離のごとく夕飯時などにはおかずのやり取りがなされています。

 主たる内部空間はリズミカルな登り梁の連続性と、様々な活動の性質に応じた大小の居場所を雁行するように連ねることで、繋がりを持った奥行きのある空間構成としました。個々が家族との距離感をはかりながらその時々の居場所で活動しながらも、どこにいても家族の気配を感じられる空間を目指しました。また本好きの家族のために表情の異なる2種類の本棚を壁面いっぱいに設け、本を通じた家族や友人、地域とのコミュニケーションを促す場として計画しました。

 作品名にある家型・イエ型とは建物の外観を形成する切妻屋根を”家型”、内部にある五角形の木の箱を”イエ型”と呼称したものです。それらを入れ子状にすることでこの敷地に建つそれぞれの「家(世帯)=イエ型」が集まり一つの「大家族=家型」となるレイヤー構造を建築空間で表現しました。それはこの空間体験により、私たちは様々な集団に属する個であるという関係性を考えるきっかけとなり、そのふるまいや社会性、さらには家族の絆を育むことを試みたものです。

 建築士の職能の一つにお施主様の抱える様々な問題や課題を、その知識と経験から建築を通して最良の提案をし解決に導くことが挙げられます。私たちはそうしてつくられた一つひとつの建築が、より良い社会を築く一端を担っていくことを願って設計活動をしていきます。

いいなと思ったら応援しよう!