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セッション定番曲その45:Higher Ground by Stevie Wonder /Red Hot Chili Peppers

ファンク系セッションの歌モノのセッション定番曲。ベーシストからのリクエストも多いですね。みんな歌の意味は理解して演奏しているかな?
(歌詞は最下段に掲載)

和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。


ポイント1:Higher Ground

より高い土地」とは何なのでしょう?
歌詞の中で様々な立場の人達の営みを列記していて、この世界すらもいつまで続くか分からない、と言っています。だけど、だからこそ、皆んなで「高み」を目指していかなければならないのだ、と呼び掛けています。

キリスト教的な概念だと「天国」のことになると思いますが、それをベースにしながらも、もっと汎用性のある「高み」についての歌だと解釈するのが良いのではないかと思います。日本人からすると「絶対的な善」のようなものがあるという概念自体がどうもすんなり馴染めないので。

I'm so darn glad he let me try it again
'Cause my last time on earth I lived a whole world of sin
I'm so glad that I know more than I knew then

「前世じゃ失敗ばかり」「今はもっと賢くなっている」「再挑戦させてもらえる」と輪廻転生っぽいことも言っています。挑戦し続けていれば再度チャンスをもらえるんだ、と。Start Overしよう、と。


ポイント2:それぞれの営み

People keep on learning
Soldiers keep on warring,
Powers keep on lying
While your people keep on dying,
Teachers keep on teaching
Preachers keep on preaching,
Lovers keep on loving
Believers keep on believing,

それぞれが与えられた役割をまっとうするように営みを続ける様子が歌われています。それがこの世の摂理だと。

ただ、単にそれを信じて同じことを続けていて本当にいいのか、という疑問も呈していますね。権力は常にウソを撒き散らし続けて、兵士達は戦場に送り出され続けて、民衆は希望を叶えられずに死んでいくだけ。

だから「俺は挑戦し続けるよ」「俺に続く者はいるかい」と。

People keep on learning
と言ってしますが、そこで学んでいることは単に権力から「与えられた」ものなんじゃないのか、という疑問も。


ポイント3:それぞれの挑戦

曲が後半になって、歌われている内容が聴き手に刺さり始めていくと

No one's going to bring me down
Don't you let nobody bring you down

挑戦することの邪魔は誰にさせない、させちゃダメだ
という強い意志表明の意味が分かってきます。

先の見えていない世界の中で、必ず「現状維持でいいんじゃない」と足を引っ張る者も出てくるので、自分の強い意志で振り切っていけ、と。


ポイント4:1973年8月(昭和48年)

この曲がリリースされた時は米国にとってどんな時代だったのでしょう?

長く続いたベトナム戦争は米国にとって敗色濃厚になり、米軍は撤退(実際には1975年まで戦争は続くが)、泥沼の対共産圏戦争は米国民にも米軍にも深い傷だけを残して終焉に向かっていました。ただ、先が見えたことでホッとした面も。

1960年代後半~1970年代前半の米国音楽はこのベトナム戦争の影を抜きに語れません。すごく単純化すると、「常に正義の味方である(はずの)米国」→「悪である共産主義は撲滅しなかればならない(かつてのナチスドイツや日本のように)」→「正義の為の戦争が存在する」→「(北)ベトナムなんて短期間で制圧出来るはず」→「あれっ?何か長引いているなぁ」→「戦場から帰ってきた兵士の様子がおかしい」→「何か異常な事が戦場で起きていないか?」→「相手の非戦闘員も殺している?」→「一体いつこの戦争は終わる?」→「徴兵なんてされたくない」→「この戦争の意義は何なんだ?」→「あれっ?負けそう?」→「政府とか偉いヤツらに騙された!」

歴史の浅い米国の精神的な支柱だった「正義の味方である米国」という大前提が崩れていって、それまで蓋をしていた「人種差別」やら「都市部と農村部との経済格差」「男女の性差別」やらがあらためて表面化。それまでの価値観が崩れていった時期です。

政府では「ウォーターゲート事件」が明るみになって、もともと嫌われ者だったニクソン大統領が糾弾され1974年に辞任に追い込まれていきます。これも「米国民が公正な選挙で選ぶ疑似国王=正義の体現者」という前提/幻想があっさり崩れ去る事件でした。

音楽やポップカルチャーにとってはネタの宝庫だったという訳ですね。単に時流にのった反戦ソングや精神の解放を歌った曲も沢山ありました。それいう底の浅い曲はやがて淘汰されていきましたが。

そして1973年は「オイルショック」が始まった時期でもあります。それまでも不安のあった原油の価格と供給が一気に不安定になって大混乱。あらゆるモノの需給バランスが崩れて不景気に突入していきました。

そういう背景を理解してこの曲をあらためて聴くと、抽象的ではありますが、より精神性の強い世界観を歌っている感じですね。


ポイント5:天才 Stevie Wonder

1970年代前半のStevie Wonderは、まさに才能が開花して、いくらでも名曲を生み出せる雰囲気がありました。この曲もそんな全盛期の作品のひとつ。全ての楽器をひとりで多重録音して制作。このウネリのあるリズムとグルーヴ感はその賜物と言えます。ひとりで多重録音した経験のある人なら分かると思いますが、人にはそれぞれ独自のリズム感覚があって、口で他人に説明するのは難しいけれど、ひとりで音を重ねていくとクリックに頼らなくても割とピッタリとリズムやノリが合う音が作れることがあります。

単に直線的なファンクではなくて、気持ちよく揺れながら、バックビートを強烈に感じながら、ちゃんと歌も聴こえる曲。


ポイント6:Red Hot Chili Peppers

1989年のこのカバーの方を先に聴いた人も多いかもしれませんね。
フリーの強烈なスラップベースを核に失踪するファンクロック版。ノリもかなり違っていて、前のめりな感じがします。

内容的に、より大衆/聴衆に呼び掛けて、みんなで叫ぶアンセム的な印象。セッションでこっちのイメージで演奏されることも多いですね。

Stevie Wonderは盲目で、キーワードで作曲することもあってフラット系のキーの曲が多いのですが、RHCPのバージョンはベースやギターの開放弦が使えるロック王道のキーになっています。


ポイント7:発音のポイント

語尾に「ing」や「ong」が出てくる単語が頻出します。これをリズムに乗って歯切れよく発音したいですね。
発音記号は「ŋ」で、これは得意な人と苦手な人がいます。元々は日本語の標準語(東京方言)にもあった音ですが、徐々に弱くなってきているようで、逆に東北地方の方言に残っていたりするのでややこしいですね。
「音楽学校(おんがくがっこう)」と発音してみて、自分の発音がどうなっているのか確かめてみましょう。

これも意識せずに自然に歌えるように、原曲をよく聴いて真似してみましょう。

なお「long」と「longer」の発音の違いについての詳しい説明は・・・
「ng」の発音には2通りあるんです | デュープラー英語学院

■歌詞


People keep on learning
Soldiers keep on warring
World keep on turning
'Cause it won't be too long

Powers keep on lying
While your people keep on dying
World keep on turning
'Cause it won't be too long

I'm so darn glad he let me try it again
'Cause my last time on earth I lived a whole world of sin
I'm so glad that I know more than I knew then
Going to keep on trying
'Til I reach my highest ground

Teachers keep on teaching
Preachers keep on preaching
World keep on turning
'Cause it won't be too long

Lovers keep on loving
Believers keep on believing
Sleepers just stop sleeping
'Cause it won't be too long

I'm so glad that he let me try it again
'Cause my last time on earth I lived a whole world of sin
I'm so glad that I know more than I knew then
Going to keep on trying
'Til I reach my highest ground

'Til I reach my highest ground
No one's going to bring me down
'Til I reach my highest ground
Don't you let nobody bring you down
God is gonna show you highest ground
He's the only friend you'll have around
'Cause the rest of the world will bring you down



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