ネコの舌/ラング・ド・シャ ミュージアム
ミニネコ 7枚×5
収集年:2024
購入場所:ラスカ熱海
形:長方形型
内容量:7枚×5
価格:1,400円(購入当時)
製造地:
販売者:三木製菓
特徴:1946年創業の三木製菓による代表作「ネコの舌」を詰め合わせた一品である。本品は、新鮮なバターと卵をふんだんに使用し、手作りの素朴さを大切にした焼菓子である。名前の由来は、口に含んだ際の滑らかな舌触りが子猫の舌を思わせることにある。熱海を代表する銘菓として、地元住民や観光客から長年支持されている。7枚入りの小袋が5つセットとなっており、手土産としての利便性にも優れている。温かな郷愁を感じさせる味わいは、時代を超えて愛され続けている。
駅舎のポストと忘れられた約束
序章: 一人旅と過去の記憶
香澄(35歳)は新幹線の窓からぼんやりと景色を眺めていた。広告代理店のクリエイティブディレクターとして働く彼女は、常に自分のセンスを信じて疑わなかった。しかし、ここ最近、周囲からの評価は芳しくなく、次第に孤立していった。
「成果が出ないのは、周りの理解が足りないから。」
そう信じていた彼女も、ここ数か月の状況には精神的に追い詰められた。上司との不和や、部下たちからの無言の反発。その全てが香澄を消耗させていた。ある日、いつも通り忙しいオフィスで過ごしていた彼女は、突然息苦しさを覚えた。思わず手に取った旅行雑誌に掲載されていた熱海の写真が、彼女の心を一瞬で掴んだ。
「ここに行けば、何かが変わるかもしれない…」
衝動的にその日の夜、切符を手にして新幹線に飛び乗った香澄。目的も計画もなく、ただ逃げるようにして電車に乗り込んだ。東京の喧騒から遠ざかるにつれて、次第に心が軽くなるような気がした。
新幹線が熱海に到着すると、香澄はそのままローカル線の電車に乗り換えた。熱海駅から少し外れたローカル線の駅舎は、昭和の雰囲気が色濃く残る木造の小さな建物だった。到着した瞬間、彼女は何か懐かしいものに触れたような気がした。
「この感じ、なんだろう…」
木製のベンチや錆びた自動販売機、少し薄汚れた駅名標。どれも現代の駅では見かけないものばかりだった。幼いころ、家族旅行で立ち寄ったような記憶がかすかによみがえるが、明確な形にはならない。
駅舎の片隅に小さな売店があり、そこで香澄は「ミニネコ 7枚×5」を手に取った。その包装紙の柔らかな感触や、描かれたネコの絵柄が、彼女の心を少しだけ和ませた。
「これ、昔食べたことがある気がする…」
レジで会計を済ませると、香澄はそのまま駅舎を出た。外の風は心地よく、遠くから聞こえる波の音が、都会で失われた感覚を少しずつ取り戻させてくれるようだった。
「昔、ここに来たことがあるのかもしれない…」
香澄はそうつぶやきながら、ゆっくりと坂道を歩き始めた。
翔太との出会い
駅舎の近くの坂道を歩いていると、香澄は地元の男性とぶつかりそうになった。
「あ、すみません!」
その男性—翔太(38歳)は柔らかな笑顔で頭を下げた。香澄が手にしていた「ミニネコ」の袋を落としたことに気づき、拾い上げて差し出してくれた。
「熱海のお菓子、おいしいですよね。」
「ええ…まあ。」
香澄はそっけなく返事をしたが、翔太の親しみやすい雰囲気に少しだけ気を許し、近くの喫茶店「時の帳」に案内されることになった。
喫茶店の壁には無数の写真が飾られていた。それは店主が集めた観光客たちの記録だった。香澄はその中の一枚に目を奪われる。それは、自分が幼少期に訪れた際に撮られた写真で、隣には少年が写っていた。
「これ、私だ…。」
翔太がその写真を見て驚いた表情を浮かべた。
「その隣にいるの、俺ですね。」
喫茶店での謎の手紙
香澄は驚き、店主に尋ねると、写真と共にその少年が残した手紙も見つかった。そこにはこう書かれていた。
"またいつかここで、同じ景色を見たいね。"
香澄はその約束をすっかり忘れていたが、翔太は香澄をずっと覚えていたという。その純粋な思いに香澄は言葉を失う。
「ごめんなさい…そんなこと、全然覚えてなくて。」
「まあ、子供の頃のことですから。でも、今こうして会えたのがちょっと不思議ですよね。」
翔太の穏やかな口調に、香澄は自分がいかに過去に無頓着だったかを思い知らされた。
駅舎のポストと記憶の断片
翔太は喫茶店のテーブルを指で軽く叩きながら、思い出話を続けた。
「実は、あの駅舎にはちょっとした秘密があるんですよ。」
「秘密?」香澄は不思議そうに首を傾げた。
「駅の隅に、昔からある赤いポストがあるんですけど、それがただのポストじゃないって噂があって。投函した手紙が、過去や未来に届くことがあるんだとか。」
「そんなことあるわけないでしょ。」香澄は鼻で笑いながら答えたが、翔太の真剣な表情に心を揺さぶられた。
「まあ、信じるかどうかは自由です。でも、せっかくだから試してみたらどうですか?せっかくここに来たんですから。」
その言葉に促され、香澄は駅舎に戻ることにした。夜の駅舎は昼間とはまた違う顔を見せていた。少し薄暗い蛍光灯が空気を冷たく照らし出し、遠くでカエルの鳴き声が響いていた。
赤いポストは駅舎の隅にひっそりと佇んでいた。その表面は古びていたが、どこか神秘的な雰囲気を漂わせていた。香澄は翔太から渡された便箋に手を伸ばし、しばらくペンを握ったまま考え込んだ。
「未来の自分に向けて何を書くべきだろう…」
香澄はペンを動かし始めた。
“未来の私へ、
あなたは今、どうしていますか?
仕事での失敗や過去の選択を悔やんでいるのかもしれないけれど、それも大切な経験の一部です。他人を信じ、自分だけが正しいと思わず、周りと協力して新しい何かを作り出してほしい。過去を後悔するより、今を大切に生きて。”**
手紙を書き終えた香澄は、それをポストにゆっくりと入れた。ポストの口が閉じる音が、駅舎に静かに響いた。
「何か変わるのかな…」香澄は独り言のように呟いた。
その瞬間、不思議な感覚が彼女を包み込んだ。駅舎全体が一瞬、温かな光に包まれたように感じられたが、それは一瞬の出来事だった。香澄はその場で立ち尽くしたまま、心の中に小さな変化の予感を感じていた。
再会の余韻
翌朝、香澄は東京行きの新幹線に乗り込んだ。車窓から見える景色は、昨日と同じようでいて少し違う。何が変わったのか自分でもはっきりとは分からないが、心の中に微かな期待が生まれていた。
東京に戻った香澄は、少しずつ変わり始めていた。職場では、同僚たちの意見をこれまで以上に聞き入れるようになり、チーム全体の雰囲気が柔らかくなった。彼女自身も肩の力を抜いて仕事に向き合えるようになり、成果も自然とついてきた。
数か月後、香澄は再び熱海を訪れることを決意した。翔太から「駅舎のカフェが開店する」と連絡が入ったのだ。彼の誘いに心が踊り、熱海行きの切符を手にした。
カフェの開店当日、駅舎には地元の人々や観光客が集まり、賑わいを見せていた。翔太は忙しそうにしながらも香澄を見つけ、満面の笑みで迎え入れた。
「来てくれてありがとう!久しぶりですね。」
「もちろん。これはお祝いのための特別な日だから。」
カフェの壁には、新たに撮られた写真や訪れた人々のメッセージが飾られていた。その中には香澄と翔太が子供の頃に写った写真もあった。
「ここで過ごした記憶が、こんな形で繋がるなんて思いもしなかった。」
香澄はそう呟きながら、カフェの一角で「ミニネコ」を頬張った。その味は、幼少期の記憶だけでなく、これからの未来を紡ぐための新たな一歩の象徴のように感じられた。
香澄と翔太は、新しい景色の中で穏やかに語り合い、再び訪れた熱海の町と駅舎を静かに見つめながら、新たな思い出を心に刻んだ。
(完)