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「歌人ノート」が動き出す
授業の冒頭に五行歌の一枚文集を配って読み聞かせをしている。石川晋先生の「見たこと作文」の実践から学んで行っていることだ。子どもの作品を六首ほど載せて、僕からのコメントも添える。今週発行したものには、子どもたちを歌づくりに誘ってみるように意識して言葉を送った。その歌を選んだ理由となる歌の良さを伝えるだけでなく、教室にいる子どもたち全員に向かって僕の願いのようなものも全面的に出してみようと思った。そうしないと、今の五行歌づくりの現状は変わっていかないなと思ったからだ。いや、それが良い方向につながる自信は全くなかったけれど、今できることを考えたときにそれしか思いつかなかった。現状、子どもたちの歌づくりはイベント的になっている。授業で創作の時間を確保しようと思うと、良くても一か月に一作品ペースになってしまう。もっともっと子どもたちのなかから五行歌が生まれるにはどうしたらいいのか。冬休み前に呼びかけた「歌人ノート(今までの「五行歌ノート」と比べて持ち運びやすいようにメモ帳サイズにした)」の反応もイマイチ…。今回の一枚文集発行は、僕のそうした現状を打破したい思いも込められていた。
授業冒頭の読み聞かせを終えて、僕は廊下に出た。冬休みに作った五行歌を提出してもらおう。ほんの一瞬でも、一人ひとりと話す空間や時間をつくりたかった。子どもたちは教室の中で列をつくり、順に廊下に出てくる。最初に来た子が「私も歌人ノートがほしいです」という。驚いた…。まさかそんなこと言われると思わなかったから。次の子も、またその次の子も「僕もほしい」「私もそれで書いてみたい」と言う。うーん…どうなっているんだ。結局二学期の終わりに歌人ノートを持っていた三名に加えて、今日だけで十五名ほどになった。もちろんこのノートを持っているからといって、教室の歌づくりが豊かになるとは限らない。それでも「このノートをもらいたい」「このノートで書いてみたい」と思ってもらえたことが嬉しかった。どうして急に反応があったのかはわからない。子どもたちの心に影響したのは一枚文集かもしれないし、もともとノートを持っていた子の姿かもしれない。それとも全然違う他の何かかも。プロジェクトを考え、歌人ノートでの創作を提案してから三カ月。やっと動いたな…という感じ。こちらからノートを渡して、個人的に「どお?書いてみない?」と言おうか迷った瞬間もたくさんあった。でも持ってみることにした。最初はただ待っていただけだけだったけど、全体に向けて誘い続けることはやめないでおこうと思った。「書きたい」って気持ちはいつ生まれてくるか、本当にわからんな…。とにかく、よかった。
ここからが勝負!と思ったら、もう一月か。この子たちと来年も授業ができるとは限らない…。いや、考えるのはやめよう。今できることをひたすら積み上げるしかない。