鬼平ポタリング ブロンプトンで羽生市へ
衆議院選挙の投票を終えて、午後に予定のない日曜日、どこかに出かけようと思い立ちました。
「寒いし、鍋でも食べに行こう」
鍋 → 鍋といえば両国?
→ 両国といえば、『鬼平犯科帳』に出てくる「五鐵」のモデルになったと言われている「かど家」さんがあるよね。
→ 『鬼平』といえば、埼玉県羽生市の高速道路PAに、鬼平をテーマにした鬼平ランド(うろ覚えの極み)が出来たと聞いたなあ。
という連想ゲームを経て、埼玉まで輪行して鍋を食べに行こうツアー1名様より催行、に決定しました。
羽生まで輪行してしまうと味気ないので、途中、埼玉県草加市で下車します。日光街道の宿場町として有名な草加、ランドマークになっている「谷古宇橋(やこうばし)」は残念ながら現在工事中でした。ここから流山方面に向かい、草加せんべい屋さんが立ち並ぶ町並みを抜け、江戸川沿いを北上することにします。
この日の江戸川サイクリングロードは、良く晴れていてとても気持ちがよかったのですが、とにかく寒い! 気温が低くて北風も強い、北上するには厳しい気候です。それでも下着にアンダーアーマー&上着にウィンドブレーカーの組み合わせのおかげで、走行中は暖かいぐらいになりました。防寒、大事です。
途中、サイクリングロード沿いにある「庄和排水機場(通称:龍Q館)」で休憩をとります。首都圏に大雨が降ったとき、地下にある巨大トンネルに一旦雨水を貯めておき、ここのポンプで江戸川に排水することで洪水を防ぐ、という施設です。施設内はこのポンプの仕組みを説明してくれる博物館になっていて、モニタールームを見学できたりします。
知っている人は知っているかもしれないこの「庄和排水機場」、実は特撮ヒーロー番組の聖地でもあります。巨大な柱が立ち並ぶ排水施設が、ヒーローと怪人の戦う場面のロケ地として使われたり、近未来的なモニターがずらりと並ぶ操作室が、ウルトラマンの警備隊の司令室のロケ地になっていたりします。最近では「仮面ライダー鎧武」の司令室もここでした。特撮好きにはワクワクする場所ですし、巨大なトンネルやポンプにもワクワクできます。男の子大興奮間違いなしの施設、江戸川沿いをサイクリングするときには一度立ち寄ってみてはいかがでしょうか。
江戸川と利根川が合流する地点には、「関宿城(せきやどじょう)」が建っています。上の写真で中央にうっすら見えているのがそうです。
今回は立ち寄りませんでしたが、城の中は江戸時代の利根川治水事業の歴史を説明した博物館になっているほか、周囲にはサイクリスト向けの休憩施設もあります。葛西臨海公園→関宿城→葛西臨海公園という江戸川沿い往復ルートを走るときには、往復約120kmのコースの折り返し地点としてベストな場所ですよ。
ここから利根川沿いの道に入り、ひたすら北西に向かいます。
東北自動車道の羽生パーキングエリア(上り)までやってきました。走行ログでは渡良瀬の周辺で豪快に道を間違えたり、羽生パーキングエリアの下り側に向かってしまっていたりしますが、あまり参考にしないでください(笑)。
こちらの鬼平ランド(仮)は、正式名称を「鬼平江戸処」といい、羽生パーキングエリア内のレストランやお土産屋などの施設を江戸時代風に改装したゾーンになっています。羽生には昔から江戸へ向かう旅人に対する関所が設けられていたことがその由来になっているそうです。
#鬼平犯科帳 って本所・両国あたりのお話じゃないのん? と疑問を持つ方もいらっしゃるでしょうが、そのへんはまあ、大人の事情なんでしょう。本所周辺にはもともと池波正太郎ゆかりのスポットも多いので、そのうち別のポタリングレポートを書こうと思います。
「鬼平江戸処」はパーキングエリア内の商業施設なので、基本は東北自動車道からアクセスするわけですが、一般道路からも入ることができます。お土産屋や休憩所も、映画村顔負けなほど本格的に、江戸風に作られていますね。
#池波正太郎 といえば、東京の食べ歩きエッセイを書くぐらい、作者本人がグルメであることでも有名です。そのせいか、小説の中でも食べ物の描写が抜群に上手く、読んでいて妙に空腹感をもよおすこともしばしばです。『剣客商売』の根深汁や、『真田太平記』で加藤清正が食べていたタコのなますなど、私もいくつかの食べ物が不思議なぐらい記憶に残っていました。
「鬼平江戸処」では、そんなグルメの池波正太郎にちなんだ食べ物屋が軒を並べています。
で、今回の目玉はこちら、『鬼平犯科帳』にしばしば登場する「五鐵」さんです。実際に人形町で鶏鍋を提供しているという老舗の料理店、「玉ひで」さんの監修による、小説内のお店を再現したお店になっています。高速道路のパーキングエリア内のレストランとしては、実に本格的ですね。
お……きたきたきましたよ(孤独のグルメ風)。「軍鶏鍋定食(1,500円)」です。ちょいと割高ですが、両国や人形町で鍋を注文すると、このお値段の倍じゃ済まないので……。
鉄鍋で鳥のもも肉、つくね、ネギ、しらたき、高野豆腐などを割り下(醤油、砂糖、みりん、酒)で煮込んだ一品です。鍋の具を溶き卵につけて食べるので、全体的に「鶏肉を使った甘い味付けのすき焼き」という感じですね。さっぱりした味付けの茶飯と相まって、寒い冬にもってこいです。鶏肉も美味しいのですが、割り下が染み込んだ高野豆腐が「じゅわり」ときて感動的でした。
確か『鬼平犯科帳』原作では、鳥のモツを煮込んだ鍋料理だったかと思いますが、一般的なレストランではつくねに変更しているんでしょうね。一応原作を確認してみました。『鬼平犯科帳』「明神の次郎吉」より下記の箇所。
次に、軍鶏の臓物の鍋が出た。
新鮮な臓物を、初夏のころから出まわる新牛蒡のササガキといっしょに、出汁で煮ながら食べる。
熱いのを、ふうふういいながら汗をぬぐいぬぐい食べるのは、夏の快味であった。
「うう、こいつはどうも、たまらなく、もったいない」
夏に食べてるじゃねーか!
鍋と言えば冬だという自分の記憶のガバガバっぷりにツッコミつつ、軍鶏鍋定食を美味しくいただきました。料理店の監修を受けつつ、原作の料理の雰囲気を再現するという職人芸、感服です。
それにしてもこちらの「鬼平江戸処」、日曜日だということもあるのでしょうが、お客さんがいっぱいで賑わっていました。未だに『鬼平』は愛され続けているんですね。
『鬼平』の魅力はなんといっても、主人公・長谷川平蔵の魅力に尽きるでしょう。貧しくとも懸命に生きている庶民の味方となり、悪いことをして私腹を肥やす盗人を懲らしめる、清々しいまでの勧善懲悪ストーリーは、粋な江戸っ子の鬼平のキャラクターがあってこそ、イヤミにもならず、時代を超えて多くの人に訴えかけているのだと思います。
たとえば、『鬼平犯科帳』「兇賊」より以下の一節。
「旦那。うれしゅうござんすよ」
「なぜね?」
「人なみに、あつかっておくんなさるから」
「人なみって、人ではねえか。お前もおれも、このおやじも」
見ていて聞いていて、九平は、
(この浪人さんは、大したお人だ)
いっぺんに平蔵に好感を抱いてしまった。
行政を司るお役人が、こんなにも人情にあふれた人たちなら、きっと町民の暮らしも希望のあるものになるんでしょうね。と、選挙に絡めて話のオチとしつつ、今回のレポートといたします。
今回の走行ログです。
http://yahoo.jp/hr20mk