【エッセイ】呪われた体 ~下戸~
主は52歳のおっさん。呪われた体質(下戸)である
酒はビールをグラス一杯飲んだだけで顔が紅潮するほどの憐れな呪われっぷりであるため、主は酒とは無縁の人生を歩んできた。
ここであらかじめ断っておくが、
酒と無縁の人生とは、単に酒を飲まない人生ではない。
幼年期に想起した「大人」とは、サザエさん一家の男系眷属のように、家路に至る酒屋で杯を重ね、残酷な日々の労苦をしばし癒し、束の間の自由を謳歌するものだった。
しかし、呪われた者にとってそれは許されない世界の出来事である。
神の垣間見せた一縷の望みがあるとすれば、世は密かに
「おひとり様」
ブームである。
一人カラオケ・一人焼肉などの啓蒙的店舗も出現するようになった。実際、狂熱の首都東京は、その半数以上の世帯が単身世帯(一人世帯)という名状しがたい状況にあるらしい。
そういえば都内の飲食店で一人で食事をしている強者は以前よりもずいぶん増えたように思う。
もっとも、主の住んでいるような、妻帯者街(ファミリー世帯の多い街・ベッドタウン)では、ラーメン屋ですら家族連れが多いという狂った世界である。
嗚呼、せめてビールの一杯でも飲めれば、もっと貪欲に、この秘匿された世界を貪ることができように!
繰り返すが、主は52歳の呪われたおっさんである。妻子もいる。
娘が小さい頃は家族で行動することが多かったが、幼年期の終わりに伴い、各々ソロで探索することも多くなる。
となると、やはり主の行動範囲の狭さを再認識せざるを得ない状況となる。
友人の事情も様々で、予定もなかなか合わないものだ。
嗚呼、せめてビールの一杯でも飲めればサマになるものを・・・。
しかし、ここに原初的かつ致命的な問題がある。主は
ビールが嫌い
なのだ。
無論、ビールもこんな主を愛してはいまい。
嫌いなものを無理して飲む人生など悪夢そのものだ!
しかし、ウイスキーの香りは好きな気がする。
私はそこに活路を見出そうとしているのだ。