【エッセイ】下戸が初めてウイスキーを買う。笑うがよい。
主はアルコールを受け付けない、「呪われた体」であるため、酒屋は行動エリア外である。万一、酒屋に入って
「いらっしゃいませ、何かお探しですか?」
等と言われた場合、SAN値が大幅に削られることは明白だ。個人店の酒屋には当分行けないだろう。
さて、そこで近所のスーパーである。
案の定、品薄と言われている「響」「山崎」といったジャパニーズウイスキーの雄はそこになく、鎮座しているのは異国の地の酒か、「オールド」「角瓶」「ブラックニッカ」といった、酒に疎く生きることを強いられてきた主でも知っている銘柄ばかりで安心感がある。
ここで、主の狙いはミニボトルである。
呪われた者の、酒選び第一のポイントは量である。
普通のボトルを購入し、それが口に合わない場合に厄介だからだ。
「ウイスキー初心者はシングルモルトのスコッチを買うべきである」
というネット情報を目にしたばかりであった。
シングルモルトのスコッチは癖がなく、初心者の登竜門として最適であるという。
しかし、当然だが、
スーパーにシングルモルトのスコッチはない。ましてやそのミニボトルなど!
しばし逡巡し、結局
デュワーズ(Dewar's)
を購入した。
"TRUE SCOTCH"と書かれたラベルはシンプルながらエレガントであり、酒色は薄い飴色だ。
主にとってウイスキーといえばもっと濃い色のイメージであったが、ああいうのはコーヒーで言うところのビターな味なのかもしれない。そう思って優しげな素性を持っていそうなこのデュワーズを選択した。
異国のウイスキーの中では最も安価な、200mlで700円くらいだった。そこにある種の安らぎを感じたのも事実だ。
デュワーズの酒瓶を持ってレジに向かう主を見て、誰も呪われた男(下戸)だとは思わないだろう。そう考えただけで粟立つものだ。
尤も、いい年して安酒のミニボトルを買う、みすぼらしい人物に見られている可能性もある。そう考えた主は、そのボトルを隠蔽するようにポテチとカラムーチョをカゴに追加するのであった。
余談だが、主はウイスキーの量に怯むのに反し、ポテチの袋はいくら巨大でも十分に対応できる自信がある。
呪われた体質であることが奏功し、胃腸は頑健である。ステ振りが肝臓よりも胃腸メインなのだろう。
主は神によって、そのようにビルドされているともいえよう。