【短編】ミュージカル好きの教授
科学者たちは、有史以前の人類の様子を初めて見た。
最初に驚いたのは、彼らが歌うように話していることだ。それはもはや完全に「歌」と言っていいものだった。
勿論、現代の音楽とは違うのだが、食料となる獲物を手に入れて嬉しいときは、朗々としたテンポの速い歌で。誰かが死んだり、仲間が傷ついたときは、どこか悲しげな歌で意思疎通する。
驚いたことに、彼らは歌で、現代の科学者にも感情を伝えることができた。言葉の意味は解らずとも、感情が先に伝わるのだ。
もっとも、犬や猫だって、悲しいときには、いかにもそういう声で鳴くものだ。彼等の気持ちですら人に伝わるのだから、古代人の気持ちが理解できるのも自然なことなのかも知れない。
人類にとって「歌」とはそういうものだったのだ。
「実はね。私は「歌」という芸術の存在を不思議に思っていたんだ。喋れば済むことに敢えて節をつけて歌う動機というか、それが芸術としてはじまった端緒というか、そういう場面が想像できなかったんだ。だけど、これで理解したよ」
「そうか。順番が逆ってわけだ。人類は最初は歌でコミュニケーションをとっていた。要件に感情を乗せてね。けれど、より迅速な意思疎通を行う必要に駆られ、結局は今のように喋るようになったのかも知れない」
「そうね。だから生活に余裕がある貴族達の嗜みとして歌が残ったのかも知れないわね」
タイムマシンに乗ってやってきた学者達は、そのような推論を交わした。
「そうとも!」
と別の教授が力強く叫んだ。泣いている。
「だから、ミュージカルは変じゃないんだ!ちっともね。あれは・・・ミュージカルは、人類本来の姿だったのだ!」
別にミュージカルを変だなんて誰も言ってないのに、教授はそう熱弁した。