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実証・理論研究紹介9:協働ガバナンス

このページでは自分の専門と関連する分野を中心に、最近の査読付き学術誌(英語)での社会科学の実証・理論研究結果について紹介していこうと思います。このようなページを書こうと思った動機は、日本での政策議論や論壇等で国際的な査読付き学術誌での実証・理論研究成果にあまり目が向けられていないと思ったからです。細かい内容紹介や訳出は時間の制約上できかねますので、この投稿が論文の存在を知るきっかけ程度になればと思います。紹介した論文の送付もできかねますので、ご自身で入手をお願いします。

これまでは主に実証研究を中心に紹介してきましたが、今回から理論的な研究も加えて、「実証・理論研究紹介」とします。

今回は一つの研究ではなく、Collaborative governance(協働ガバナンス)についてのいくつかの代表的な先行研究(理論研究)を紹介します。

過去20年間で行政学、公共経営学で多くの注目を集めた概念の一つがCollaborative governance(協働ガバナンス)です。いくつもの代表的な研究がありますが、主なものを挙げるとAgranoff & McGuire (2003); McGuire (2006); Bryson et al. (2006); Thomson & Perry (2006); Ansell & Gash (2007); Emerson et al. (2011); Hartley et al. (2013); Dickinson & Sullivan (2014);
Bryson et al. (2015); Choi & Moynihan (2019) 等があります。Google Scholar(2020年9月26日現在)での引用数を見ると、2266 (Agranoff & McGuire 2003), 1202 (McGuire 2006), 2349 (Bryson & Crosby 2006), 5060 (Ansell & Gash 2008), 1851 (Emerson et al. 2012)と引用数が高く、注目を集めている概念であることが分かります。

協働ガバナンスとは、従来のように単独の行政組織(例 〇〇省、△△市)が単独では解決できない、又は解決が難しい公共的な課題に対して、複数の組織が連携をして意思決定、課題の解決をする意思決定や統治の体制のことです。例えば、「集団的意思決定プロセスへのステークホルダーの関与」、「合意に基づく意思決定」、「参加者が目標と戦略を協働して作成し、責任と資源を共有する」(Ansell & Gash 2017)、「集団目標と行動へのコミットメント」(Bryson et al. 2015)、「参加者間における知識の共有と信頼の醸成」(McGuire 2006)等が特徴として挙げられます。研究者によって定義は若干異なりますが、例えばMcGuire (2006)では「単一組織では解決できない問題を解決するために、複数の組織の連携を促進し、運営するプロセス」と定義しています。また、Collaborative governanceという場合もあれば、collaborative public management(協働による公共経営)、Cross-sector collaboration(セクター間の連携)等、異なる用語を用いることがあります。ポイントは単独ではなく複数の組織(官-民の場合もあれば、官-官)による公的問題の解決ということです。

こうした公共経営上のアプローチが注目を集める背景は、環境問題のように官僚制度の個別省庁等の所掌分野を横断するような課題が増えてきたことに加え、従来の指揮命令型(command & control type)、法律に基づく所掌分野に限定をされた各公的機関の活動領域といったヴェーバー型官僚システムによる問題点が挙げられます。また、1970-80年代以降アングロサクソン国家を中心に流行した新公共経営(NPM)では、公共サービスの受け手を顧客として捉える視点が重視され、民主主義における意思決定の参加者として重視されなかったため、その反省からCollaborative governanceのアプローチが強調されるようになったという背景もあります(Ansell & Gash 2007; Aoki 2015b; Waugh & Streib 2006)。

具体的な事例は下記の査読付き国際学術誌でいくつか掲載されていますが、例えばフランスで子供の肥満防止キャンペーンを中央政府、地域レベルで様々なステークホルダー(厚生労働省、非政府組織、民間企業、国会議員、地方議員、地域の医療関係者、教師、地域のNGO等)が共同プラットフォームをつくって、啓発活動を行い成功を収めた事例等が報告されています(Ansell, C., & Gash, A. (2018)。また最近では、政府のコロナ対策を協働ガバナンスの考えから考察する論文等も出版されています。日本については、東日本大震災後の復旧、復興過程での被災地方公共団体への地方公務員派遣を協働ガバナンスの観点から考察している事例研究論文等があります(Aoki 2015a; 2015b)。


1)協働ガバナンス (collaborative governance)の主な理論的研究文献

Ansell, C., & Gash, A. (2008). Collaborative governance in theory and practice. Journal of Public Administration Research and Theory, 18(4), 543-571.

Ansell, C., & Gash, A. (2018). Collaborative platforms as a governance strategy. Journal of Public Administration Research and Theory, 28(1), 16-32.

Bryson, J. M., Crosby, B. C., & Stone, M. M. (2006). The design and implementation of Cross‐Sector collaborations: Propositions from the literature. Public Administration Review, 66, 44-55.

Bryson, J. M., Crosby, B. C., & Stone, M. M. (2015). Designing and implementing cross‐sector collaborations: Needed and challenging. Public Administration Review, 75(5), 647-663.

Dickinson, H., & Sullivan, H. (2014). Towards a general theory of collaborative performance: The importance of efficacy and agency. Public Administration, 92(1), 161-177.

Emerson, K., Nabatchi, T., & Balogh, S. (2012). An integrative framework for collaborative governance. Journal of Public Administration Research and Theory, 22(1), 1-29.

McGuire, M. (2006). Collaborative public management: Assessing what we know and how we know it. Public Administration Review, 66, 33-43.

2) 政府のコロナ対策や危機管理と協働ガバナンスに関する研究

Kim, P. S. (2020). South Korea’s fast response to coronavirus disease: implications on public policy and public management theory. Public Management Review, 1-12.

Huang, I. Y. F. (2020). Fighting Against COVID‐19 through Government Initiatives and Collaborative Governance: Taiwan Experience. Public Administration Review.

van der Wal, Z. (2020). Being a Public Manager in Times of Crisis The Art of Managing Stakeholders, Political Masters, and Collaborative Networks. Public Administration Review.

Christensen, T., & Lægreid, P. (2020). Balancing governance capacity and legitimacy‐how the Norwegian government handled the COVID‐19 crisis as a high performer. Public Administration Review.

Aoki, N. (2015a). Wide-area collaboration in the aftermath of the March 11 disasters in Japan: Implications for responsible disaster management. International Review of Administrative Sciences, 81(1), 196-213.

Aoki, N. (2015b). Collaborative manpower support for restoring hope in the aftermath of the March 11 disasters in Japan Natural Disaster Management in the Asia-Pacific (pp. 101-117): Springer.


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