プラハにて
音楽とは、瞬間の芸術だなあ。
二度とない時間に、その時にしか響かない音があり、空気がある。
チェコの首都・プラハを流れるブルタヴァ川にかかるカレル橋上にて。
サックスとベースで奏でる『Moon River』――
素敵な演奏に出逢いました。
日本では古来より農作や炭鉱の傍らで人々が口ずさんだ歌があると言われる。その中には、曲名もなければ、毎日変化をし続け、特定の形を持たなかった歌もある。いつからともなく歌い始まり、さまざまな人を巻き込み、いつともなく終わる歌。常に変容し続け予測がつかない「自然」と同視していたのである。
一方で、西洋では音楽に名前をつけ、特定の形を与えることで自然から切り離すことをしてきた。西洋における芸術とは、自然と区別した所で永遠性を与えられるものだと言われる。
これらの違いは絵画にも見られ、西洋絵画の額縁は、自然界と芸術との境界線である。これに対して、日本における、特に水墨画にいたっては線の境界線も曖昧であったり、掛け軸となって書院の床の間に納まり、和室の全体へその芸術性の影響力を行使している。さらには、和室の<縁側>は内(ウチ)と外(ソト)の融合点である。このように、常に自然との一体化を試み、大宇宙ともいえる自然の中に、小宇宙としての芸術を表現することが日本における創作活動であったのだ。
しかし、どんなに名前と永遠性を与えられた芸術であっても、それを鑑賞することは(音楽においては演奏することと、鑑賞すること)その時限りの体験である。
これはMoon Riverであって、同時に、名前のない音楽でもあったのだな、と。
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チェコ共和国の首都、プラハは東欧と西欧を結ぶ重要な交易拠点として栄えた町。プラハ市内を悠々を流れるブルタヴァ川は、チェコを代表する作曲家スメタナが、自身の代表曲である連作交響詩『わが祖国』の『モルダウ』という曲のモチーフにしたことでも有名。
連作交響詩『わが祖国』は、私も何度かオーケストラで演奏したことがあるのでブルタヴァ川への観光は、特に思い入れがありました。