個人的読書メモ『東急百年ー私鉄ビジネスモデルのゲームチェンジ』
本について雑感
東急株式会社常務執行役員の東浦氏が執筆した、東急の都市開発・再開発について記した本。タイトルには「私鉄ビジネスモデル」とあるが、「私鉄型不動産ビジネスモデル」の方が本書の趣旨を正しく表現していそう。
東急の方が書いた東急の本なので、当然いいところを書いている印象。もし暗部も知りたければ『土地の神話』を読むべきだろう。その一方で、企業としての戦略、仕組みを知ることができるのがこの本の良いところ。
残しておきたいメモ
おおよそ20世紀の間はベッドタウン型の郊外住宅地開発事業を実施。それに一段落ついてから次の収益事業として都心の再開発が活発になった。再開発が主流になる前に都心で何をしていたかというと、東急百貨店、SHIBUYA109、東急ハンズといったリテール不動産事業であった。つまり、沿線住民の消費の場所として渋谷を開発したが、生産の場所としての開発ではなかったと思われる。また、タイミングよく渋谷が都市再生緊急整備地域に指定されており、住宅整備事業を一段落させて余った大企業の資本の向け先として国の配慮があったのではないかと想像。
「(バブル景気にて)東急も特に不動産価格高騰により大きな利益を上げましたが、すでに土地区画整理事業は峠を越えていましたので、いずれはやってくる多摩田園都市の販売用土地在庫の枯渇を目の前にして、新たな収益事業の確立が急務となっていました。」(p. 56)
「開発面では多摩田園都市での土地区画整理事業も最終版に入り、2006年に「犬蔵土地区画整理事業」が竣工し、これで大規模な一時開発事業はほぼ終了することになりました。」(p. 64)
「渋谷駅周辺の139haもの地域が2005年に「都市再生緊急整備地域」に、次いで2012年には「特定都市緊急整備地域」に指定され、渋谷の再開発は国にとっても大きなテーマとなりました。」
田園都市線の土地区画整理事業では合意形成できた地区から開発が進められたが、最終的に一体的な開発となったのはマスタープランがあったから。(このマスタープランは東急の私的な計画だったのか、あるいは法的拘束力のある計画だったのか?)
「土地区画整理事業は最初に合意形成できた地区からどんどん進められます。合意形成に時間がかかる地域もありますが、最終的には隣の地区と繋がって、連続した住宅地になりました。これは最初に描いたマスタープランがしっかりしていたからなせるわざでした。」(p. 80)
渋谷は若者の街→起業の街→オフィス街と成長した。東急が再開発で供給した大規模オフィスビルには巨大IT企業が入居した。逆に言えば、巨大企業が入居する算段があったから大量にオフィス床を供給できたとも考えられる。
「賃料の安い雑居ビルなどを中心に、ストリート文化、サブカルチャーが根付き、若者のまちというイメージが定着しました。その猥雑さが魅力でもあったのですが、大企業が立地するような大きな床のオフィスとは無縁の街でした。」(p. 96)
「それ(東急の再開発)までは急成長する自分たちの会社が入る大きな器がなかったのですが、東急グループが渋谷に大規模オフィスビルを供給するようになると、GMOインターネット、google、サイバーエージェント、MIXIなど、勢いのあるIT企業が次々とオフィス床を借りてくれました。」(p. 98)